★任意後見契約はおすすめしない。認知症対策を誤らないでください!

Q&A

任意後見か家族信託か、迷っている

Q. 母親の物忘れが最近、目立ってきました。 ふつうに会話できますが、何か以前とは違う感じです。
今のところ、通帳を自分で管理していますが、「通帳がない、カードがない」と電話がかかってくるようになりました。
そのたびに実家に駆け付け、なんとか“発見”できているのですが、いつ銀行に口座を凍結されるか、冷や冷やです。
こんな母を守るために私は、母と任意後見契約を結ぼうか、と考えています。
成年後見にはいろいろ“不都合”があるのでしたくないですが、任意後見なら、母がボケても私が通帳を管理でき、安心ではないかと。
それとも「家族信託契約」の方がよいのでしょうか。
違いが分からず迷っています。
(東京都、T・K)

 

■任意後見はよい制度、との錯覚を憂慮

A. あなたのように、「任意後見」をとてもよい制度のように思っている人が多いので、私は憂慮しています。
「よい制度」と思う理由は、たぶん《任意後見なら、自分が後見人になれる》と思っているからでしょう。
家庭裁判所が後見人を決める法定後見(成年後見・保佐・補助)に比べれば、確かにマシではありますが、
「だから良い制度」と思い込むと、ほぞをかむことにならないか、とても心配です。

 

憂慮する理由は2つ―――
①あなたが任意後見人になると、法定後見以上に厳しくあなたの財産管理を監視されることになる、
ということ
もう一つの理由は、②任意後見を使うと法定後見に誘導される恐れがある、ということ。

 

■他人に監視されるのは法定後見と同じ

まず最初の問題。
あなたはなぜ「任意後見契約」を結びたいのでしょう。 
このままお母さんが通帳・カードを持っていると、銀行に口座そのものを凍結されてしまうかもしれない。
そうなったときに、自分が任意後見人になっていれば、母に代わって自分が通帳からお金の出し入ができる、と考えるからでしょう?

 

それは半分当たっていますが、任意後見契約には重要な制約があることを忘れないでください。
任意後見契約と法定後見(成年後見・保佐・補助)を合わせて「成年後見制度」と言います。
共に家庭裁判所の管理下にある制度です。

 

成年後見は、家庭裁判所が士業後見人を選任し、本人の財産すべてを後見人等が管理します。
(本人の財産額が少なく、家族間の対立がない場合は、家族が後見人になることもあります。その確率は20%以下)
一方任意後見は、後見開始時に家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、任意後見人(あなた)を監督させます。
任意後見監督人は弁護士か司法書士、つまり100%職業監督人です。
親の財産管理に『成年後見』という制度を使う限り、赤の他人からの監視は免れません
法定後見(例えば成年後見人)の場合は、原則年1回の報告で済みますが、任意後見監督人への報告は年数回に及ぶことも少なくありません。
(この点は、任意後見監督人の性格に左右されます)

 

■定期預金の解約も「自由」ではない

あなたが任意後見人になっても、問題解決にはなりません。
例えば「500万円の定期預金の解約」を考えてみましょう。
任意後見監督人に何も相談しないで解約できると思いますか?
はじめに「母が介護施設に入所するための保証金に充てる」と説明しておけば、監督人のOKは出るかもしれません。
しかし「今後の出費に備えて、定期預金はすべて解約する」という理由なら、監督人は難色を示すでしょう。
定期預金を普通預金に換えれば、明らかに使い勝手がよくなります。
それは「お金が流出しやすくなること」と、監督人は考えるからです。

 

任意後見監督人がこの問題を家庭裁判所の事務官に相談すれば、同様の答えが返ってくるでしょう。
月々の生活費の内容にまで監督人がいちいち干渉することはないとは思います。
しかし「熱中症対策に部屋にエアコンを買う」などという費用についてだと、任意後見監督人は口をはさみます。
日常の費用以外の“(おおむね10万円単位の)大きなお金”については、「私に相談してください」と言うでしょう。

 

■お母さんの施設入所にも口出し

お母さんがいよいよ施設に入るときも、簡単ではないかもしれません。
苦労してためたお金を“湯水”のように使わないように、と監督人が干渉する可能性があります。
母が管理していればそうしたであろう“当たり前”のことが、他人の口出しを受けるのです。
それは監督人の「正義感」かもしれませんが、家族の感覚とはだいぶ違うでしょう。

 

任意後見も、法定後見と同様に「本人のお金だけを守る制度」と化しています
失礼なたとえですが、私は江戸時代の奉行制度を、つい連想してしまいます。
奉行→与力→目明し→その子分……。
“権力”が下にいくほど庶民の一挙手一投足に口を出したがる。
もちろん「名奉行やヒーロー目明しが、現代では皆無」、とまでは言いませんが。

 

■成年後見に誘導する家庭裁判所

もう一つの問題は、もっと重大です。
法定後見も任意後見も「成年後見制度」というひとつの庭の中にある制度です。
最近相次いで私は、「任意後見を始めようとしたら家庭裁判所の事務官に、法定後見に切り替えるよう誘導された」という相談を受けて驚きました。
ひとつの庭の中にあるどころか、両者は“1つの橋”でつながっていたのです。 <イラスト参照>

成年後見制度には「法定後見(後見/保佐/補助)」と「任意後見」があります

 

「任意後見と成年後見には橋が架かっている」ということ、専門家でもこの問題を意識している人は少ないようです。
私も認識不足であったひとりだったわけですが、「まさか」と思ったのには理由があります。
「任意後見契約に関する法律10条1項」には、こう書いてあるからです。

第10条 (後見、保佐及び補助との関係)
1 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。

 

 

この条項を私は素直に、「任意後見契約を結んでいれば、後から成年後見制度が割り込む余地はない」と思い込んでいました。
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、普通に考えれば、①本人がだまされやすい、浪費癖があるなど成年後見人の「取消権」があった方が本人を守りやすい場合、あるいは②本人と後見人の間が不仲になってしまい、任意後見できる状態にない場合――など、特殊なケースのはず。

 

■“成年後見を避ける防波堤”にはならない!

ですから家族信託契約をすすめる専門家の中には、文字通り「家族信託に、間違っても成年後見人に口を挟ませる状況が発生しないように」と、あえて(委託者と)任意後見契約まで結ぶことを原則としている人もいるくらいです。
しかし私は、家庭裁判所はもっと頻繁に「任意後見の入り口(任意後見監督人選任のタイミング)」で、「任意後見ではなく、成年後見を開始した方がいい」と強く家族に促していることに気づいた、というわけです。

これでは任意後見は防波堤になるどころか、逆に、法定後見を呼び込む誘因になる』 と思うようになり、以後私は、任意後見契約も安易に勧めないようにしたのです。
家裁(の事務官)は、本人・家族のヒヤリング時に“❶親族間の対立”を感じ取ったり、任意後見人候補者に“❷不正をする恐れ”を感じると、「任意後見ではなく、成年後見の方がよさそうですね」と促しています。
親の財産や、親に後見人を付けるか否かで兄弟姉妹の対立がある場合、私も任意後見契約はすすめず、公的後見を使うか、あるいは「何もしない」かをおすすめしています。
※この場合、家族信託も不可です(受託者になる人が大変な思いをするだけですから)。

ヒント30px

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■申立てが遅れると“不正”と思われる

親族間の対立は、申立書やヒヤリングでも観取できそうですが、❷不正する恐れとは何を根拠にいうのでしょう。
最も有りそうなケースは、任意後見申立てのタイミングの遅れです。
任意後見契約書の作成を専門家に頼むとき、多くの場合は「財産管理の委任契約」を任意後見契約の前段階として差しはさみます。
任意後見人に付与する「代理権」とほぼ同じ権限を委任契約受任者(つまり「あなた」)に与えるわけです。

その代理権で首尾よく銀行との取引ができるようになると、多くの人はそれが快適で(監視なしですからね)、その状態を続けようとします。
任意後見監督人選任の申立をできる限り遅らせるわけですね。
※財産管理の委任における代理人に銀行取引を認める金融機関は、3割程度しかありません。

 

ヒヤリングする事務官は、本人(後見を受ける人)を目の前で見、かつ話を聞くわけですから、本人の常況がわかります。
成年後見相当くらいまで意思能力・判断力が落ちていれば、「もっと早く任意後見を開始すべきでしたね」と判断するでしょう。

このような場合、任意後見人に擬されている家族を「信用できない」と思っても、無理はありません。
この場合、担当者は公的後見を強く家族に勧めますし、裁判官にはそのように報告するでしょう。
最高裁判所は、「任意後見→法定後見」への移行の数字を公表していませんが、かなりの割合で成年後見への移行は行なわれています。

(※参考記事「★任意後見開始を申立てたら成年後見に誘導された」)

★任意後見開始を申立てたら成年後見に誘導された

 

■身上監護は家族が行なうべきこと

任意後見契約か家族信託か、で迷うもう1つの理由として
「家族信託には身上監護権がない」ということがよく挙げられます。
身上監護とは、後見される人の社会生活や治療・療養・介護などに関する手続きを代わりに行うことをいいます。
具体的にいうと、介護保険の手続きや本人の住まいを確保すること,治療や入院の手続、施設入所する際の契約を行うことです。

 

確かに、家族信託の受託者に、本人に代わってこれらの手続きを行う権限はありません。
しかしこれらの手続き、家族なら今でも行えます
要介護認定や申請などの介護保険法上の手続きは家族が行なえますし、病院、施設も家族がいれば大いに安心して、何でも家族に相談し(本人の意思能力が減退しているときには)延命措置を行うかどうかの判断まで、家族にも求めてくるのが実情です。
逆に後見人等は、身元保証人や身元引受人になれないし、延命云々に口を挟むこともできません。

 

ですから「将来、身上監護のことがあるから任意後見契約をしておかなければ」というのは誤解です。
ですから独り身、頼れる家族がいない場合は身上監護のために任意後見を頼ることはあり得ても、
ふつうのご家族の場合は「身上監護のための任意後見」はいらざる選択です。

 

■対立があるなら家族信託をしてはいけない

最期に、あらためて念押ししておきます。
以上の私の見解は、あなたのご家族が互いに協力し合える“よい家族”であることを前提に書きました。
でも、親からの支援や親を介護する・しないでもめたり、特定のひとりが親に急接近しているような家族もありますよね。
このような家族の場合は、任意後見契約すらしない方がいいでしょう。
先ほど黄色のマーカーをつけた箇所を思い出してください。
兄弟姉妹の間に対立や意見の大きな不一致がある場合は、家族信託はおろか、任意後見すらおすすめできません
現に子に不正がある(濃淡はあっても親の金を横領していたり、せびったりしている子がいる場合。また、親がそのような子であってもなお擁護し続ける場合)なら、成年後見人または保佐人に任せた方がいいと思います。

 

この文脈でお分かりになると思いますが、家族信託ができるのは家族に信頼関係がある「とても幸福な家族」の場合だけ、ということです。
▼親が子を完全には信頼しきれない(単に子にお金を託すことが不安なだけかもしれません)、あるいは▼親に代わって子の財産管理に委ねた方がよいと思うけれども、子が単独で財産管理をしていると他のきょうだいから疑念がわいてしまうかも、といった場合は、任意後見契約か家族信託系商事信託を利用するのがよいのではないかと思います。
家族だけで完結させるより、受託者が信託銀行となる商事信託(子は引出代理人を務める)や、任意後見監督人という第三者の目が入る任意後見の方が家族間のギクシャクを防ぎやすいと思いますから。

 

商事信託も任意後見契約も、それなりにお金はかかります。
しかし他人に完全にお任せとなる成年後見よりはまし。
では、商事信託と任意後見契約ならどちらの方がおすすめか。
家族が折り合えるなら商事信託の方を私はおすすめします。
委託者(本人)も引出し代理人(家族)も信託銀にとってはお客様なので、何かと感じがいいですから。

<このコンテンツと同テーマの記事>

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★家族が対立すると成年後見に追い込まれる。使いづらい制度のキモを解説――幻冬舎GoldOnlineが家族信託の本から記事を抜粋

<最終更新 2022/12/19>

静岡県家族信託協会
行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)

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この記事を書いた人
石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
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