「認知症」と言ったのがアダに
Q
父から受け継いだ会社をたたむことにしました。
父名義の土地を父の承諾を得て売却することになり契約直前まで来たのですが、司法書士に登記を依頼するために相談に行った折、私がつい「父が軽い認知症だったので……」と口を滑らせたところ、途端に「登記はできません」といわれてしまいました。
契約するばかりの段階にきているのに、父に会うこともなく登記を断られるなんて、と途方に暮れています。
確かに父は、町のお医者さんに「認知症の傾向が出ていますね」と言われましたが、薬が合っているせいか明るくなり、取引先との会話にも不自然はありません。土地売却も父の指示で私が動いたので、本人の意思能力は確かです。
司法書士は「後見人を立てるしかない」といいますが、調べる限り、後見人は一度立ててしまうと成年後見制度から離脱することはできないようです。
土地売却のためだけに拙速に後見人制度を頼ることには抵抗があります。
後見人制度以外に現状を打開する方法はありませんか?
違う司法書士の判断を求めたいところです。
A
よく聞く話です。
非常に解決は難しそうですが、100%不可能ではないと思います。
そもそも、本人を見ないで「認知症」の言葉をうのみにして登記事務を断る人がいるとは、驚きです。
司法書士は、成年後見申立てに慣れていますから、家庭裁判所に提出する医師の診断書に「保佐相当」「成年後見相当」のチェックが入れば、九分九厘、登記事務は行いません。
そのことに慣れすぎているのかもしれません。
士業を行う者は、ある意味で「契約行為ができるかどうか」を判定する者になりますので、面談するときには緊張します。ですから見ないで断る、というのは論外です。
成年後見制度では認知症を、補助・保佐・成年後見の3段階で考えます。
補助と保佐の境目は、専門家でも判断はつきにくいものです。
法律によって違いますが、補助相当の段階の人を欠格とする法律は少ないですから、不動産の売買も補助相当であれば”セーフ”になる可能性が高いです。
お父さんを伴い、ほかの司法書士に当たってみてください。
会話してみれば、登記を請け負っていいか、危ないかは司法書士が決めます。
契約の詳細をお父さんからきちんと聴取すれば、お父さんの常況は判断がつくと思います
土地を家族信託しておけば、安心
またご心配なら、お父さんに読み書き、会話や計算ができる今のうちに、「質問者」のあなたと家族信託契約をすることをすすめたいと思います(委託者:父、受託者:あなた、信託財産:換価予定の不動産と金融資産)。
家族信託は契約行為なので、成否はお父さんの事理弁識能力次第です。
公証人が契約能力を認め、銀行でもまた定期預金の解約等ができたとすれば、司法書士も登記事務を行うでしょう。
(信託では、契約当初に「父→あなた」への所有権移転と信託の登記を行います)
あなたが受託者になれば、売買契約が長期化しても何も心配はありません。
また契約相手も、先方の判断能力を危惧する必要がないので、契約の安全度は増すでしょう。
コメント