★相続までの「時間差」が20年余 ! ! 楽観消し飛ぶ老後、自身や妻の行く末守れますか!?

遺言相続

相続までの「時間差」を考えたことがありますか?
遺言適齢期に差し掛かり、急にそんなことが気になりだした。
今考えている『私が死んだらこうしてもらいたい』は、”その時”に通用するのだろうか。
私の相続が発生するのはたぶん20数年後、周りも20数年、時計の針が進んでいるのだ。

■20年の時間差で周りは激変する

考えてみれば「相続までの時間差」のことを誰も指摘しないのは奇妙なことである。
セミナー講師たちは相続税対策、節税策ばかりに気に取られ、自分が死ぬ時期など眼中にないのであろう。
おかしい。
永遠に生きる人など、いないのに。
そして皆さんに「相続対策」などとしたり顔で話している私自身、「相続対策」を語っている今と、私が実際に死亡するときとでは(多少の希望的観測を含め)20数年のギャップがあるであろうこと、そしてそれが大きな問題であることに、つい最近まで気づいていなかった。

うかつである!
この20年のタイムラグは、相続対策に決定的なズレを生じさせるかもしれない。
こういうことだ。

相続のことを考え始める適齢期・・・・・60代~70代
実際に亡くなる時・・・・・・・・・・・80代後半―90代(まれに100歳)

 

▼相続を考え始める今の状況

  • 親 定年、完全リタイヤ、老後のことについて思いを馳せるるようになった → でもいま現在は、まとまったお金が多少はある。
  • 子 30代~40代前半、現役バリバリ、子育て・教育・マイホーム → 自分の家庭のことで精いっぱい。お金はいくらあってももっと欲しい。親が今、贈与してくれたらどんなにうれしいことか。

▼本人が亡くなる20年後

  • 親 死期が近づく、認知症、介護、病気、寝たきり、病院や施設で暮らしているかもしれない → いまだに「手元にお金がなければ不安」という状況。「相続対策」は今となっては難しい。完全に死に切るまで「住む場所」と「お金」はいるのだから。
  • 子 60代、こちらもリタイヤ。子(親から見れば孫)のためにさんざんお金を使ってきたので、「これから老後のことを考えなければ」という時期。親からの“援助”は前倒しでほしかったが、自分のこととして「老後」のことを考えると、60過ぎの親に生前贈与を迫ったのは「酷だった」と思うようになった。→(親が健康なら)遺産は私の老後を支えてくれる資金になる。ありがたい。
    (親が認知症や寝たきりなら)まさかこんな事態になるとは。老後はいくらあっても足りない。お金はともかく、支え手の子(私)が頼りないと、親の不安はいかばかりか……。

 

■「実家」の価値も変わる

「マイホーム」についても考えてみよう。
われわれ庶民の相続で、”争族”になってしまう最大の要因として「実家」(親の家)がある
何しろ財産価値が高い。あるいは負の財産になることもある。
(都会では地価高騰、地方では住み手なく空き家放置・・・)
私も、講演などではそんなことを語ってきた。
だが、どこまで的確にその土地土地の現実をつかんでいたのか、心もとない。

 

▼マイホームの価値も、時間によって推移する!

  • みんなが若いころ ……▶ 夢のマイホーム、幸せの拠点
  • 今、親は60代 ……▶ ようやくローンを完済、住む家があるのは安心の源、子は巣立ち夫婦で2人、家の広さをもてあますようになってきた。
  • 今、子は3、40代 ……▶ マイホームを持ちたい。条件さえ合えば「同居」してもいい。2世帯住宅なら。しかし多くの人はそんな知恵を働かせず、新築をめざす。親が援助してくれるならローンの頭金にしたい。

▼そして20数年後

  • 親、80、90代 ……▶ 家は完全に老朽化、減築して1階のみにするか、マンションなどに住み換えたい。独りになったら住み換え先は老人マンションや介護施設になるだろう。しかしお金が湯水のように出ていく。私が施設暮らしとなれば、自宅は売却して老後の資金にするしかない。
  • 子、60代 ……▶ もはや自分の拠点で安住。親の介護のために引っ越して同居するのはまっぴら。同居すれば「小規模宅地の特例」を使えて土地を8割引きで相続でき、税金面の有利さはあるが・・・。このままで行けば「実家」は『空き家問題』を引き起こすやっかいものになるかも。それより親の独り暮らしが心配だ。詐欺に遭い、根こそぎお金を取られるかもしれない。病気で倒れてもこちらは気づきようがないし。

 

■「実家」はやがて負の遺産に

こういうことは薄々分かっていた。
それでもセミナーで「小規模宅地の特例」は何度も話してきた。
配偶者の税額軽減」と並んで、日本の相続税法の2大特典だ。
同居していれば無条件で、親の土地(330㎡まで)を8割引きで相続できる。
だからこの話を抜きにして「セミナー」は成り立たないと思ってしまうのだが、
現実にはこの話、「相続に備えて(便乗して)2世帯住宅を造って親と同居しよう」と考える人でなければほとんど意味がない。

 

40年以上も親と同居してきた私は、無条件では同居をすすめない。
あなたがよほど辛抱強く妻を(陰に陽に)ずっと支える覚悟がないなら、やめといた方が無難だ。
現在のお嫁さんにとって、同居はそれほど重苦しい“難事”なのだから。

 

子が同居したいと思わないない限り、小規模宅地の特例は使えない。
ならば分けにくい財産の典型である「実家」を無理にも遺す合理性はあまりない。
住んでいる人の勝手で、好きに処分すればいいのだ。

 

突然、「減築」などという聞き慣れない言葉を使ってしまった。
2階はいらないので1階だけにし、ついでにワンフロアに改築したらどんなに快適か、とこれは私の勝手な妄想である。
ふつうこういう話をセミナーでしても、まったく受けない。
聴く人にリアリティーを感じさせないのだと思う。
(実際に、減築にはお金がかかり、老後資金を減らす結果となる)

 

でもこれは声を大にしていっておきたい。
実際の相続発生は20年以上後ですよ、そのころ「実家」は間違いなく(引き受け手がない、地方だと売るに売れない)負の財産。
これをどうするかは、早いうちに子と話し合って、打てる時に手を打っておいた方がいいですよ、と。

東京だと全然別の問題が・・・・・・。
地価高騰、さして広くもない敷地が1億円超え
当然妻に相続したいのに、地価が高すぎて子が遺留分を持ち出すと暗礁に真里挙げてしまう。

 

■母を差し置いて「もらって当然」か?

もう一つ、あまり受けない話。
「ふつうのお宅の相続では、妻に全財産を相続させたい」と話すと、
子世代の人たちからは、驚いたような目で見られることがしばしばだ。
子は、父親が亡くなった一次相続で、早くも財産分けをしてほしいようなのだ。

 

どこか違う世界の『遺産争族』ドラマを見すぎなんじゃあないだろうか?
「子はもらって当然、それなのに何を言うか」みたいな冷めた視線を感じる。
大資産家の相続ならお好きなように、遺族が勝手に分け合えばいい。
でも遺産総額4、5千万円、その6割以上が実家の評価額で占めるような”ふつうの家族”が、「法定相続だ」などと言い出した日には、お母さんの老後資金はどこに残るというのか!?

 

民法も民法だが、「法定相続分」を権利だと主張する子がいるとは・・・・。
「あなた、バカですか!」と、私は言ってしまいそうになる。
お母さんの生活を不安に陥れて、父親の(遺した)金を当てにする子がどこにいる!?
でも私の言い方は、正当な相続人をかなり怒らせそうだ。
「親の金を当てにする子」はリアリティーのない話ではなく、今ここにある現実だ。

 

■5、60代でもバカ息子、バカ娘⁈

もっと恐ろしい話をしたい。
この話、あなたは「30代のバカ息子」のことと思ったのではないだろうか?
私もついついそう思いがちなのだが、30代の話ではない、”バカ息子・バカ娘”は50代、60代が大半だから参ってしまうのだ。
本来、老いた親の面倒をみるのは子の務め、義務だ(と私は思って来た)。
しかしそんな「義務」をそっちのけで「法定相続分」という民法第900条の条文のみを盾にとって”権利だ”と主張する相続人の方が多そうだ。

 

こうなると「そんな子に育てたあなたの育て方が悪かった」と言われそうだが、
5、60代の大人のすることを今になって”親のお前のせいだ”と言われてもねぇ・・・・。

 

相続対策と実際の相続発生までには20年余のタイムラグがある。
しかもその20年は平坦ではない。
体力の衰え、認知症、脳梗塞のようなやっかいな病気もある。
大病しないまでも、介護度は確実に上がっていくだろう。
正直言って、老後はお金がかかる。
不意の大金出費がしばしばなのだ。

 

それなのに「民法」は老いたあなたの敵に回る。
だから夫たるもの、分からず屋の子に対しては「お母さん第一!」を骨の髄まで子に刷り込んでおかなければいけない。
しかし残念ながら、こちらがよほどの覚悟で子に厳しく臨まなければ、親の財産を当てにする子の性根は変わらない。

 

■節税のため贈与するなんて、ケチな発想だっ!

60代の、今のあなたは少し余裕がある。
長年の会社勤めを終えてほっとして、心に隙間がある。
子は30歳前後、この時期はまさにお金を喉から手が出るほどほしくなる「人生のサイクル」にいる。
親として子を見れば、甘くなりたくもなるかもしれない。

 

折も折、「相続税増税」が世間に取りざたされて、節税がテーマになっている昨今である。
セミナー講師はせっせと「生前贈与」をすすめるだろう。
しかしあなたは冷静に考えてほしい。
節税のための生前贈与だなんて、目的がけちくさすぎないか!?

 

欧米の人だったら、まずそんな発想を持たないだろう。
厳しい歴史を何世代も生き抜いてきた彼らは、お金の尊さ、金の力を知っている。
「節税のため子や孫に生前贈与する」などというおバカな発想は絶対にもたない。
やるとすれば、子や孫の未来に投資するため、明確な目的と目標をもって何かをしようと企図している者を支援すること。

 

目的のない贈与のばらまきは、もらった者をだめにすることはあっても、勇気づけはしない。
そして、あなたの老後を不安定にする。
「相続対策」をいくら考えたって、死に切るまで私たちはまだ永い長い長い時間を生きていくのだ。

 

余りの人生などではない。
まだ新しいことをするに十分な時間を私たちは持っている。
お金は自分のために使う。
使い切れなかった分だけ、人生に寄り添ってくれた者に遺す

 

そういうわがまま勝手、頑固さを持たないと、私たちの終末期が流されるままになる、と思わないか?
相続までの20年の時間差、大事に大事に生きていきたい。

 

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ノート

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<初出:2016/9/22 最終更新:2024/5/18>

静岡県家族信託協会
行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)

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この記事を書いた人

石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
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