★成年後見制度でできることの全部。老後はいばらの道だ‼

成年後見

成年後見制度を使えば何ができるんだろう。
成年後見の本質は「代理」です
本人の代わりにやってもらう、代理に過ぎない。
意思・判断能力を失った本人にとって、何でも(後見人等に)好き勝手にやられたら危険が伴うから、できることは限定的だ。
それなのに、多くの人が勘違い、または思い込まされている。成年後見人はオールマイティーだと。

 

それは全然違う。
成年後見についての説明・解説はネットや書籍・雑誌等であふれるほどあるのに、何ができるかについては、どれもあいまいだ。
いちばん大事な情報なのに、ポカンと抜けて幻想だけが独り歩きしている。
だから私は、きょうは「何ができるかの答え」を書こうと思う。

 

■答えは法務省令、「全一覧」にある

成年後見制度の後見人等(任意後見人も含む)が行えることの全一覧は、「任意後見契約に関する法律」の第3条に「証書の様式」が2種類規定されており、そこに答えがある。
その”第1号様式”はチェック方式になっている。
一覧表としては、これがいちばん見やすい。それを紹介しよう。

 

任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する法務省令
(附録第一号様式・チェック方式)

A 財産の権利・保存・処分等に関する事項
 A1 □ 甲の帰属する別紙財産目録記載の財産及び本契約締結後に甲に帰属する財産(預貯金[B1・B2]を除く)並びにその果実の管理・保存
 A2 □ 上記の財産(増加財産を含む。)の処分・変更
    □ 売却
    □ 賃貸借契約の締結・変更・解除
    □ 担保権の設定契約の締結・変更・解除
    □ その他(別紙「財産の管理・保存・処分等目録」記載のとおり

B 金融機関との取引に関する事項
 B1 □ 甲に帰属する別紙「預貯金目録」記載の預貯金に関する取引(預貯金の管理、振込依頼・払い戻し、口座変更・解除等。以下同じ)
 B2 □ 預貯金口座の開設及び当該預貯金に関する取引
 B3 □ 貸金庫取引
 B4 □ 保護預り取引
 B5 □ 金融機関とのその他取引
    □ 当座勘定取引
□ 融資取引

    □ 保障取引
□ 担保提供取引

    □ 証券取引(国債、公共債、金融債、社債、投資信託等)
    □ 為替取引
    □ 信託取引(予定(予想)配当率を付した金銭信託(貸付信託)を含む。)
    □ その他
 B6 □ 金融機関とのすべての取引

C 定期的な収入の受領及び費用の支払いに関する事項
 C1 □ 定期的な収入の受領及びこれに関する諸手続き
    □ 家賃・地代
    □ 年金・障害年金その他の社会保険給付
    □ その他(別紙(定期的な収入の受領等目録」記載のとおり)
 C2 □ 定期的な支出を要する費用の支払い及びこれに関する諸手続き
    □ 家賃・地代
□ 公共料金

    □ 保険料
    □ ローンの返済金
    □ その他(別紙(定期的な支出を要する費用の支払目録」記載のとおり)

D 生活に必要な送金及び物品の購入等に関する事項
 D1 □ 生活費の送金
 D2 □ 日用品の購入その他日常生活に関する取引
 D3 □ 日用品以外の生活に必要な機器・物品の購入

E 相続に関する事項
 E1 □ 遺産分割又は相続の承認・放棄
 E2 □ 贈与もしくは遺贈拒絶又は負担付の贈与もしくは遺贈の受諾
 E3 □ 寄与分を求める申立て
 E4 □ 遺留分減殺の請求

F 保険に関する事項
 F1 □ 保険契約の締結・変更・解除
 F2 □ 保険金の受領

G 証書等の保管及び各種の手続きに関する事項
 G1 □ 次に揚げるものその他これらに準じるものの保管及び事項処理に必要な範囲内の使用
    □ 登記済権利証
    □ 実印・銀行印・印鑑登録カード
    □ その他(別紙「証書等の保管目録」の記載のとおり
 G2 □ 株券等の保護預り取引に関する事項
 G3 □ 登記の申請
 G4 □ 供託の申請
 G5 □ 住民票、戸籍謄本、登記事項証明書その他の行政機関の発行する証明書の請求
 G6 □ 税金の申告・納付

H 介護契約その他に福祉サービス利用契約に関する事項
 H1 □ 介護契約(介護保険契約における介護サービスの利用契約、ヘルパー・家事援助者等の派遣契約を含む。)の締結・変更・解除及び費用の支払い
 H2 □ 要介護認定の申請及び民定に関する承認又は異議申立て
 H3 □ 介護契約以外の福祉サービスの利用契約の締結・変更・解除及び費用の支払い
 H4 □ 福祉関係施設への入所に関する契約(有料老人ホームの入居契約を含む。)の締結・変更・解除及び費用の支払い
 H5 □ 福祉関係の措置(施設入所措置等を含む。)の申請及び決定に関する異議申立て

I 住居に関する事項
 I1 □ 居住用不動産の購入
 I2 □ 居住用不動産の処分
 I3 □ 借地契約の締結・変更・解除
 I4 □ 借家契約の締結・変更・解除
 I5 □ 住居等の新築・増改築・修繕に関する請負契約の締結・変更・解除

J 医療に関する事項
 J1 □ 医療契約の締結・変更及び契約及び費用の支払い
 J2 □ 病院への入院に関する契約の締結・変更・解除及び費用の支払い

K A~J以外のその他の事項(別紙「その他の委任事項目録」記載の通り)

L 以下の各項目に関して生じる紛争の処理に関する事項
 L1 □ 裁判外の和解
 L2 □ 仲裁契約
 L3 □ 行政機関等に対する不服申立及びその手続きの追行
 L4・1  □ 任意後見受任者が弁護士である場合における次の事項
 L4・1・1  □ 訴訟行為(訴訟の提起、調停もしくは保全処分の申立て又はこれらの手続きの追行、応訴等)
 L4・1・2  □ 民事訴訟法第35条第二項の特別授権事項(反訴の提起、訴えの取り下げ、裁判上の和解、訴訟の放棄、認諾、上告、復代理人の選出等)
 L4・2  □ 任意後見受任者が弁護士に対して訴訟行為及び民事訴訟法第55条第2項の特別授権行為について授権すること
 L5 □ 紛争の処理に関するその他の事項(別紙「紛争の処理等目録」記載のとおり)

M 復代理・事務代行者に関する事項
 M1 □ 復代理人の選任
 M2 □ 事務代行者の指定

N 以上の各事項に関する事項
 N1 □ 以上の各事項の処理に必要な費用の支払い
 N2 □ 以上の各事項の処理に関する一切の事項

 

子細に読んで、どうでした?
『おおっ、こんなにあるのか』と思いましたか?
確かに多そうには見えているが、お金のことと不動産と相続、介護・医療の手続きくらいのもの。

 

■契約書に代理権限を表記する

任意後見契約は▼財産管理と▼身上監護の2つの目的がある(成年後見も同じ)。
任意後見人が何をできるかは、契約書に記す「代理権限」次第。
この一覧表に「✔」を入れた項目のみ、任意後見人が本人を代理することができる。

 

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そして、法定後見の成年後見人は、この一覧表のすべてを代理できる、と考えていいだろう。
保佐人や補助人は、この中の「✔」を入れた項目のみ、代理できる(任意後見人と同様だ)。
つまり、ちょっと回りくどい説明になってしまったが、この一覧表にある項目が、成年後見制度の後見人等としてすることができる最大限であるということ。
まあ、これだけあれば本人の日常生活は守れる、というほどの目安。

 

■成年後見に飛びつく理由は「お金」

人はなぜ、他人が後見人になる確率が8割であるのに、成年後見制度に飛びつくのだろうか。
いや、現実には▼飛びついてしまった、▼やむなく使わされてしまった、▼知らないまま誘導された――ということが多いだろう。
「できること」のトップは、▼不動産関係。ついで銀行関係、▼そして保険の関係。
みんな、お金の関係だ。

 

せっせと貯めてきた預貯金が使えない、そういう切実な悩みが、成年後見申立て理由の8割強を常に占める。
不動産が売れない、収益不動産のメンテナンスができない、新規入居者と契約できない。こんな困りごとも一定数ある。
中には、生命保険の死亡保険金が受け取れない、などという申立て理由もある。
保険金の受取人を配偶者にする人が多いので、一方が亡くなった時には、多くの夫や妻は認知症で判断能力を失っている。
深刻な認知症とわかると、保険金さえ受け取れない……、という現実。

 

■ワンポイント後見でいいのに

どの理由も、本人や家族にとっては、やむを得ない理由だとは思う。
しかし、そんなことのために「一生涯続く後見を選択しなければいけなかったの?」とも思う。
こういう問題なら、ワンポイントの後見人がいてくれれば十分だ。
報酬は、多少高くてもいい。使えないお金を使えるようにしてくれるら、ありがたい。

 

庶民は、ほぼ全員、そのように思っているはずだ。
しかし、現実に起きることは違う。
いったん後見人等が付されたら、本人が亡くなるまで縁切りできない。
報酬も、本人の口座から払われ続ける。
何より、後見人が何をしているのか、家族には報告さえないのが、つらい。

 

■成年後見、万能!?という幻想

ただ、きょうみなさんに伝えたいのは、そんなことじゃない。
いちばん権限をもっている成年後見人でも、できることは限られている。
本人に代わって、株や投資信託の売買ができるわけではない。
会社の経営を引き継いでやってもくれない。
そんなことは「代理」では無理なのだ。

 

ところが、そんな無理ができるかのような幻想が、成年後見制度にはある。
これは誰が悪いのか。
この制度にかかわる全員の責任だ、と思う。私を含めて。
成年後見という「制度」の説明が、全然足りないよ。

 

■こんな制度のままでいいの?

できることはほんのわずかだ。
しかし、そのわずかなことを求めて、成年後見制度に頼る(頼らされる)人が、年間3万数千人もいる。
銀行の対応はますます厳しくなってくるので、この数は減らないだろう。
でも、それでいいのか?

 

成年後見周辺の業界人の制度に対する説明は、本当に足りない。怠惰もいいところだ。
家庭裁判所や、それを統括する最高裁判所の無責任にもあきれ果てる。
お金の救済が庶民が求める成年後見への期待の8割、9割というのに、こんな使いにくいままでいいのか?
親族後見人を増やしていく、と最高裁は昨年方針を示したのに、この1年で親族後見人はむしろ減った。

 

■認知症なのに何もしないなんて

しかし、こういう法曹界のエリートたちをいくら責めたところで、何も変わりはしない。
ならば、なぜ皆さん(つまり、あなたのことだ)、もっと勉強しないんだろう
家族に認知症の兆候が見られれば、近い将来、お金のことで本人や家族は窮地に立たされる
そんなことは火を見るより明らかなのに、
そして認知症は、コロナのように急に人を殺しはしない、認知症が深刻化するには少し間があるというのに、
なぜその間、何もしないでいられるのか。

 

専門家たちの怠慢とごう慢は、もう我慢できないレベルにまで達していると思うが、
一方、何も知らないでいるふつうの人々にも、問題はあると思う。
成年後見を使っても、お金のことしか解決しない。
本人のお金が使えるようになっても、それを管理するのは後見人等たちであり、家族には声もかからない。
ゆえにこの制度を使ってしまった多くの家族に、恨みが残ってしまう。

 

■家族で老後を乗り切るなら、今から備えを

家族が認知症にかかったら、もっと身構えてほしい
成年後見を使わない老後の生活設計を、真剣に検討してほしい。
しかし「成年後見を使わない老後」の実現は簡単じゃない。
たくさん勉強しなければ追いつかない。

 

例えばお母さんがボケていたら? そして父が財産を遺して他界したら……。
父が遺言を残していない限り、遺産分割は立ち往生する。
遺産分割協議は相続人全員の一致。判断能力がない人が1人でもいれば、協議にならない。
こんなことでも、母に後見人を付ける羽目になる。
(遺産が負債だったら、もっと深刻だ。ボケていたら相続放棄もできない

 

■老人は、覚悟して対策を‼

厳しいことばかり書いたけれど、「知らなかった」があまりに多い。
今までは《それは私が上手に発信していなかったから》と思っていた。
しかし、家族信託や成年後見にかかわるようになって、私より年かさのご老人たちのあまりの甘さ、
独りよがり、意味のないプライド、危機を認めない鈍感さに接し続けてくると……。
もう、いい加減にしてくれよ!、と叫びたくなる。

 

自分の衰えくらいわかるだろう!?
あなたのために懸命な、子の気持ちを分かってほしい。
平成から令和に移った時代の老後は、もはや昭和ののほほんは通用しない。
老人とそのご家族たちに「覚悟して対策を‼」と切に願う。

 

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この記事を書いた人

石川秀樹

石川秀樹

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士)
◆静岡県家族信託協会を主宰
◆『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 家族信託より成年後見』の著者
◆新聞記者40年。61歳で行政書士試験に合格。
◆「お悩みを聴かせてください。大丈夫、解決できますよ」が信念。
《詳しいプロフィールは「顔写真」をクリック》

 

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