★『監察医 朝顔』の父・万木平さんが認知症!? 悩みを共有する「家族の力」

エッセイ

監察医 朝顔』(フジ系、月曜夜9時)を毎週みている。朝顔役の上野樹里さんの顔立ちが好きで、もちろんストーリーもよいのでみていたのだが、最近、注目シーンが加わった。朝顔の父・万木平(時任三郎さん)の挙動に目が離せない。どうやらアルツハイマー型の認知症らしい!? お手本みたいな初期症状が顔を出すと、ハラハラし、胸ふさがれる思いがする。

 

■お年玉を3回くれるじいじ

2月22日放送された15話に、象徴的なエピソードが登場した。
平(たいら)が仙ノ浦から戻り、親子孫三世代同居がまた始まった正月すぎ、物忘れが話題になる。
朝顔の子「つぐみ」が、「じいじが一番ダメだね」という。
「だって、お年玉3回ももらったもん」とポチ袋をテーブルに並べる。

 

したことを忘れてしまう。
アルツハイマー型認知症の典型的な症状だ。
平(たいら)自身、自覚していて、仙ノ浦の家で一人暮らしをしていた時は、壁やふすま、仏壇の前などいたる所にメモを貼って、「記憶」の代わりをさせていた。
それでも忘れる。東北の震災津波で行方不明になった妻、里子の父(柄本明さん)を見舞う日もそうだった。
きっかけがあって思い出したとき、平はハッとし、やがて情けなそうな顔に変わっていく。
面会時間はとうに過ぎていた。

 

■認知症を受け止めにくい自分

平は、忘れないようにと努力をしている。
しかし「すぐ前のことさえ忘れる」というこの脳の機能は、「努力」をも無にしてしまう。
忘れっぱなしなら、情けなさも、怒りも、焦りも感じないで済むのに、時折残酷な形で
「あっ、俺、忘れちゃったんだ」と思い出させる。つぐみのお年玉のように。

 

アルツハイマー型認知症は、本人に自覚がある。
自覚はあっても、当初は認めない。
『この俺が!? まさか、ね』
平は刑事だった。勘と経験知と観察力、そしてそれらを統合的にまとめる力にすぐれ、頼られていた。
そんな人が、忘れてしまう。「絶対忘れないように」と、対処法まで編み出し注意しているのに……。

 

■「自分らしさ」を奪っていく業病

認知症は当初、病気の顔をしていない。
熱も出ないし、寝込むこともない。体は元気で“世界”は何も変わっていない。
変わりつつあるのは、自分の中の、脳の機能のほんの一部だ。
小さな変化が、静かに、時間をかけて進行していく。

 

この病気に悲劇性があるようには見えないのに、月日が経つと、悲喜劇であり残酷でもある様相が、周りにも感じられるようになってくる。
しかも認知症に効く薬はない。
製薬各社が“次代の宝の山”を掘り当てようと、懸命に研究を続けているのに、特効薬は見つからない。
進行を抑える薬さえ、いまだ存在しない([アリセプト]が処方されるが、効果は短期的だといわれる)。
アルツハイマー型認知症は進行し、最後は命を奪う。
その過程で、その人らしさ少しずつ奪っていく
進行の過程そのものが、悲劇的なのだ。

 

■元の自分と同じではない自分

平はそういうことを知っているから、苦しんでいる。
救いはあるのだろうか。
朝顔は、つぐみが平の忘れっぽさをいぶかっていると、
「じいじは覚えていられない病気になってしまったの。でも、じいじはじいじで少しも変わらないよ。つぐみのことを大好きだし、つぐみもじいじが大好きでしょ?」
と話す。
同居している朝顔の夫、桑原君(風間俊介さん)も別の機会に、平にこんな言葉をかけている。
「お父さんが僕のことを忘れてしまっても、僕はお父さんのことを覚えています。ぜんぜん問題ないですよ」

 

雨つぶを受け止める朝顔

 

家族や身近な人に愛され見守られていることで、平は、元の自分と同じではない自分を認めようとし始めている。
しかし昔の警察仲間と話しながら、こんなこともいうのだ。
「死んじゃった方がいいのかな。迷惑をかけないうちに、死にたいとも思うよ」
周りにいってもせんないことを平は知っているが、(認知症のことを)ほのめかしたい気持ちもあるのだろう。

 

■家族の認知症を共有する家族

認知症になった本人は、「認知症の自分」を知っている。
だから最初は隠そうとする。病気自体を否定する。「まだ大丈夫だ」と思う。
思う気持ちが「うそだ」とも思っている。理知が自分を苦しめる。

 

朝顔たちは、家族の間、信頼できる人々の間で、平の病気のことを共有し始めた。
結果的にはそれが、平の気持ちを少し楽にしてくれるかもしれない。
むずかしいことではあるけれど、希望はある。

 

朝顔は平に向かって「お母さんの話をしてよ」と、ねだった。
そして、レコーダーを取り出した。
平は嫌な顔をせず、「僕も聴きたくなるかもしれないから」と微笑を見せる。
(コンヤ話シタコトヲ、僕ハ忘レテシマウカモシレナイカラ……)
平の話はその夜、長く続いたようだった。

 

■「娘に信託」で心の中に葛藤

『朝顔』のストーリーで、平の認知症のテーマが出てきたのは、私にとって画期的だった。
下世話な実務家の私は、ドラマをみながら、つい現実的なことを考えてしまう。
『平のお金は大丈夫なのか』とか、『平のような人は家族信託を認めるだろうか』とか……。

 

実は、家族信託の相談を受けた場合、10件中2、3件は、委託者となる親御さんの賛同を得られずに中途で消えていく。
契約書の調印の日になって、委託者のお母さんが泣き出すのを静かに見守ったこともある。
家族信託のことを十分に説明し、契約書も何度か読んでもらっているのに、自分の財産を人(娘さん)に託すという土壇場で、自分の人生を否定されたようで寂しく、悔しく、悲しくなる。

 

■生きてきた誇りが奪われるような思い

理解できるけれど、「わかります」とは言えない。
家族信託さえ否定したら、この人はどうやって生きていくのか、と思うから。
娘より、他人の後見人の方がいいとは思えない。
《でも、お母さんの涙はそんな理由じゃないんだな》と僕は思う。
生きてきた誇りが奪われるような気がする、というのがお母さんの中の真実なのだろう。

 

私も、ひとごとではない歳になってきたので、信託すべきという理性と、無理強いは彼女を傷つけるという思いが交錯して混乱する。
《運命に任せるしかないかも》
もっと時間があれば、朝顔や平さんや桑原君の話をしてあげたい。
家族が苦しみを共有することで認知症になったとしても、新しい一歩が踏み出せる――と。
結果的にその人は、自分で調印することを決断した。

 

■すれ違う、子の思いと親の心

私たちは、自分が正しいと思っていることを押し付けがちだ。
合理的だし、それで親の問題が解決すると思っているから。
私たちは、親の先の先を見て(見た気になって)「対策」を講じようとする。
先回りだ。それを「転ばぬ先の杖」と思っている。

 

親はそんなことを見ていない。
騒ぎ立てずに、自分の変化に向き合っている最中だ。
混乱もする。慌て、絶望しているかもしれない。
はたからは分からない。奇妙な言動ばかりに見えてしまう。
私も自分の両親に対して、そういう失敗をしてきた。

 

■親と一緒に悩む時間を!

認知症は人生後期に現れる。不意打ちだ。予想もしない。
朝顔たちは、時間をかけて混乱を受け止め、事実を受け入れた。
お金の問題や家族信託は筋書きにはないので、「平さんのお金の管理」についてはドラマになることはないだろう。

 

それは私たちひとり一人のストーリーだ。
混乱しながら工夫していくしかない。
理屈や(親の将来への)見通しで、親を攻め立て、対策を迫るより、私たちは一緒に悩む時間をもっと共有したい
子も親も前を向ければ、どんな事態になっても何とか切り抜けられる。

 

ひまわりだけではない、朝顔もお日様に向けて育っていく

<最終更新:2022/11/24>

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この記事を書いた人
石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
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