★「成年後見人をつけなければ財産が国に持っていかれる」だって⁉ 認知症の専門医がミスリードでは困る!!
「成年後見人を付けなければ、お母さんの財産は最後には国に持っていかれちゃうんですよ!」
認知症や脳梗塞を診ている脳神経科の専門医師が、相談に訪れた娘さんにこんなことを言ったそうだ。
ウソも休み休み言ってもらいたい。
意思能力や判断能力がなければその人の財産は国に没収されてしまう、だって!?
こうまで言って「成年後見」に誘導したい心根はなんなんだろう。
熊本県の女性から、突然電話をもらった。
「母に成年後見人をつけないとダメですか⁈」
以前、遺言の相談にお答えした旧知の人からである。
泣き出しそうな切迫した声なので、詳しく事情を聴いた。
この人の「お母さん」は突然の交通事故で、ほとんど今は意思疎通ができない。
でも自宅で女性が介護している。
病院や施設への送り迎えのため”介護用車両”を購入しようとした。
「お母さん」の定期預金が長年使われずに残っているので銀行に行き、解約して引き出そうとした。
窓口の行員はにべもなく「成年後見人を付けてくれないと無理です」と答えた。
まあ当然、銀行はそう言うだろう。
だが彼女の説明をもう少し聞くと、この銀行、捨てたものではなかった。
「銀行ははじめそう言ってたのですが、いろいろ説明すると、『ディーラーの請求書とお医者さまの診断書を持ってきてくれれば解約に応じます』と約束してくれたんです」
素晴らしい!
成年後見制度に丸投げせず、お客さまの事情をしっかり聴いて、なんとかしてあげようとする銀行があるなんて!
それで、彼女は病院に行った。
母親は事故に加え脳梗塞も発症していたので、脳神経科だ。
診断書を求めると医師は、
「この場合、成年後見人を付ければ、すぐやれるんだけどなぁ」
とぼやきつつ、柔らかく、しかし執拗に彼女を説得し始めた。
挙句の果てにこんなことを言った。
「成年後見人を付けないと、お母さんの財産は、最後には国に持っていかれちゃうんですよ!」
彼女は驚いてしまった。
実は以前相談を受けたのは、「遺言を書く直前に叔母が事故で意識をなくしてしまった」というものだった。
「お母さん」というのは、長年親子同然に暮らしてきた叔母のこと。
叔母に実子はなく、兄弟姉妹が8人。
今生きているのは相談者の父親である弟だけだった。
遺言がないまま叔母の相続が発生すると、甥や姪たちも相続人になるので、総勢15人超の遺産分割協議になってしまう。
相談者の彼女は父親がいるため、叔母の相続人ではない。
だからこそ叔母の遺言が必要だった。
私は叔母の安定を待って、彼女と叔母が養子縁組することをすすめた。
なんとか正式な「母と子」になって2年目が、今だ。
今度もまた、叔母の意識障害で苦しめられている。
電話だけでは脳神経科医がなぜ狂ったようなことを言うのか、さっぱり分からない。
彼女は叔母(お母さん)の唯一の法定相続人である。
母に成年後見人を付けようが付けまいが、母が亡くなれば当然に全財産は彼女が相続することになる。
(養子は相続において、実子と同等の権利を得る。第1位の相続人である)
れっきとした相続人がいるのに、遺産が国のものになるわけがない!
人が意識障害になると、(あるいはひどい認知症の場合も同じだが)成年後見人を付けないとその人の財産は、家族にではなく国庫に収納されるのであろうか⁈
医師の勘違いであるか、または知識不足である。
にしてもひどい!
専門家は自分の言葉に責任を持ってほしい!!
成年後見や相続順位は、医師にとっては畑違いの“法律の話”かもしれない。
しかしその医師は、脳神経科医である。
認知症患者の診断もしばしば行う。
人が認知症になり、症状が悪化すればどうなるか。
専門医なら、これまでにも成年後見人には会ったことがあるはずだ。
認知症と成年後見制度は深いかかわりを持つ。
どんなに世事にうとい医師でも、脳神経の問題を扱っている以上、「成年後見」は自分の仕事の範ちゅうに入っていなければおかしい。
被後見人の死亡によって後見は終わる。お役御免、後見人は退場だ。
去っていくだけの元後見人の存在のあるなしが、その後の相続に関係するわけがない!
どういうつもりでこの医師は、ありもしない(あり得ない)話を持ち出して、無理にも彼女に「成年後見」を説得しようとしたのか⁈
さっさと診断書を書いてくれればいいだけのことであった。
それを避けたというのは、成年後見制度抜きに判断能力が欠けた人の財産を動かすことに(自分も加担するのか、と)ビビッたのだろうか。
成年後見人を引っ張り出せば、とりあえず医師は“安全なところ”にいられる。
専門家が(どの分野の専門家でもだ!)そんな風に考える人ばかりになったら、後見被害は増えるばかりになるであろう。
世の中がこういう流れになってしまうことが、まことに怖い。
少し知恵を回せば、必要な人に(自分が貯めてきてお金を)自分のために使ってもらうことができる。
せっかく銀行が《そうしてあげようと》勇気を奮い起こしたのに、医師がためらい成年後見に丸投げすれば、善意や知恵は活かされない。
架空の話で脅して成年後見申立てに追い込む張本人なろうなんて、「成年後見=よいこと教」の使途にでもなってしまったのたせろうか。
私は100%成年後見制度を否定しているわけではない。
「お母さん」は90歳である。
今回は銀行の臨機応変な対応で、成年後見人を付けなくても大きなお金を動かすことができそうだった。
次もまたそうなるとは限らない。
意思能力を示せない人が大きなお金を動かそうとしたら、銀行は十中八九はそれを止める。
預金者が認知症ならなおさらだ(脳梗塞には同情的でも、「認知症」には容赦ない)。
「口座凍結だ」ということになる。
いったん凍結されるや、大金を動かせるのは公的後見人だけになる。
そういう時代になった。
だから今度彼女がお金に困り、銀行も気の利いた対応をしてくれない場合には、成年後見人を頼むしかないかもしれない。
後見費用—―年額5、60万円は痛いが、お母さんの余命を考えれば出費がいつまでも続くわけではない。
その意味では「やむなく頼む」という選択もいずれ出て来るかもしれない。
しかし、今が、そのときではない!!
医師は御託を並べていないで診断書を書きなさい。
(病気を“値切れ”といっているのではない、状態を正しく書けばいいのだ)
そしてお願いだから、成年後見制度のことをもう少し勉強してほしい。
あなたはいやしくも「専門医」だ。
「医療」という限定された知識の中だけだとしても、専門家として食っている。
一般の人に尊敬されるのが医者だ。
へたな冗談でも患者や家族は恐れ入る。
《私たちよりは知っている》と思うのだ。
そういう職業人に、うっかりや勘違いは許されない。
まして意図的にミスリードするのは、断じて禁止である。
病気が引き起こす周囲への影響についてもしっかり勉強して、訪ねてきたお客様にウソをつかないように!
心の底からお願いする。
<最終更新:2023/2/22>

◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
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