
2022.01.07
《家族信託は全国対応しています》★信託の契約書作成とコンサルティング/受託者への支援
実家の父が認知症!? 心配だから家族信託をしたいけれど、近くに専門家が見つからない。どうしよう……。 こんな方、少なくないのでは? 誰に相...
2022.01.07
実家の父が認知症!? 心配だから家族信託をしたいけれど、近くに専門家が見つからない。どうしよう……。 こんな方、少なくないのでは? 誰に相...
もっと家族信託! 石川秀樹のブログです
あなたの奥さんはすでに認知症を発症している―――。
そんな妻を、あなたが財産を遺せば守れますか?
『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』
この問題は、拙著の最重要なテーマのひとつです。
もちろん家族信託で、この問題は解決します。
というより、家族信託のメリットをもっとも活かせるケースがこれ、といっていいでしょう。
《夫婦をワンセットで考える受益者連続信託》といいます。
きょうは具体的に、その方法と考え方を解説しましょう。
Table of Contents
《仮想あなたの家族》
あなた(甲) 80歳
認知症を発症している妻(乙) 77歳
東京住まいの長女(T) 50歳
東京住まいの長男(C) 48歳
《あなたの財産》
自宅不動産(家と土地)3000万円
預金 2000万円
生命保険 1500万円(受取人は乙)
有価証券 1500万円
………………………………………………………………………
公的年金(妻の老齢基礎年金含む)360万円/年
あなたは妻とふたり暮らし。
娘と息子は、東京の大学に入学して以来、親元から離れた。
資産、年金の額とも、老後が不自由となる状況ではない。
ただ、あなたは憂うつだ。
50年以上も連れ添った妻に、認知症の傾向が現れてきたから。
娘も息子も、今さら同居できる環境ではない。
認知症の妻をおいて、『私は先に他界するかもしれない』。
それで遺言を書いてみた。
<妻には自宅と保険金1500万円と預金1500万円>
<娘と息子には預金と有価証券で各1000万円>
総資産8000万円。妻には自宅と、すぐに使える3000万円を残す。
子に1000万円を渡すのは彼らの遺留分を考えてのことである。
が、本当にこれで妻の老後は安心、と言えるのだろうか。
『もしも妻の認知症が悪化したり、自宅でひとり暮らしができないほど介護度が進んだ時には………、
むしろ自宅を売って、そのお金で施設や介護付き有料老人ホームに移った方がいいかもしれない。
しかし妻が相続する自宅は、所有者が認知症でも売ることができるのか?』
あなたの心配は当たっている。
妻の認知症がひどくなっていたら、相続そのものさえ難しくなる。
遺産分割協議は、各相続人の判断能力がなければ成立しないからだ。
この点、あなたは「遺言を書いたから大丈夫」と思っているが……、どうか。
<遺言があれば、妻の判断力にかかわらず、相続は行えますよ>
よかった、危機回避。ではあるが……、
認知症の妻に財産を遺したところで、そもそも使えるのだろうか⁉
相続により、不動産の名義は認知症の妻に移転する。
不動産の売買は契約行為である。
買い手が現れても、認知症の妻とは契約できない。
認知症により、妻の契約能力は失われているから。
(※民法では、自分がすることの意味を理解できない人との契約は無効とされる)
そのような物件の仲介に乗り出す不動産会社はないだろう。
さらに、預金の場合はもっとずっと深刻だ。
遺言に「遺言執行者」を指名しておけば(長女でも弟でもいい)、遺産の3000万円を妻名義の通帳に振込むことはできる。
しかしそのお金を月々の生活費として、誰が引き出すのだろう。
妻はキャッシュカードを作っており、暗証番号も子に伝えてあるから、当座、誰かがそのカードで引き出すことはできる。
しかし名義人が認知症である口座から、ずっと家族が引き出し続けることは難しい。
いずれ、銀行から口座を凍結される可能性は高い。
かくして、認知症の妻に遺した財産は誰も使えなくなってしまう。
「普通の遺言」ではダメだ、何か、ほかの対策を考えよう。
そこで考え出されたのが「負担付遺贈の遺言」という手法だ。
負担付遺贈の遺言とは、このようなものである。
<私は、下記不動産と金融資産を長女であるT(生年月日)に、以下の負担をかけることを条件に遺贈する。
Tは、母乙(生年月日)に対し、乙が生存中、その生活費として〇〇万円を毎月支給すること。>
これにより娘Tは、母乙の生活を保障する道義的な責任を負い、他の相続人より多くの遺産を得る。
この遺言の何が、「普通の遺言」とは違うのか、お分かりだろうか?
(多分)切羽詰まった人だからこそ思い付いたのだろう。
それは、救いたい本人に遺産を渡さず、他の者に渡す、という大胆な発想だ。
そして「他の者」に、こんな条件を付ける。
《お前に弟より多くの財産を遺そう。その代わり、お前はお母さんの面倒を一生みてほしい》
アメとムチ、というとなんだか卑しく聞こえそうだが、遺言者の思いはとても合理的だ。
はっきり言って、認知症にかかっている相続人を(民法の枠内で)守る方法は、これしかない。
先ほどから書いているように、認知症の本人に財産を渡してはいけない。
みすみすその財産を「動かせない財産」に変えてしまうことになるからだ。
だからこそこの遺言の書き手は、別の者に遺産を持たせた。
負担付遺贈の遺言にはいくつか欠点があるので、後でまとめて解説するが、「本人にはあげない」というこの発想はすごい。
民法では、「所有権」が強すぎるために、所有者の認知症は「処分権限の喪失」という甚大な結果を引き起こし、資産を何も動かせなくなってしまう。
だから、本人にあげずに誰か他の健常な人に財産を持たせれば、この問題は一挙に解決するはずだ。
実はこの点こそ、私が「家族信託で行おうとしていること」そのものだ。
問題があるとすれば、余分に財産をもらう人が、ちゃんと遺言者との約束を守るかどうか。
負担付遺贈の遺言には、すぐ分かる欠点が3つある。
1つ、Tが遺言者の思惑通りに動くとは限らないこと。
2つ、甲は、生きているうちにこの遺言の成否を確認できないこと。(遺言だから当たり前ではあるが)
3つ、今は家督相続がなくなり均分相続になっているので、条件(負担)を付けたとしても、他の相続人が反発すれば遺留分の問題が出てきてしまい、遺言者の配慮が吹き飛ばされて“争族”を招きかねない。
さらに細部まで突っ込むと、
①Tに、他の相続人より過分な相続税がかかる。
②Tは「母の生涯にわたる生活費」を預託された形だが、自己の財産と分別管理ができない。
③その結果、他の相続人が「約束の実行」を見届けたくても、事実上不可能になる。
④Tが亡くなると、(Tの家族にはなんの義務もないので)約束が継続されない恐れがある。
⑤“母扶養のための資産”の意味合いがあった父からの遺産は、(Tが亡くなると)Tの家族に相続されてしまう。
⑥遺言者の「指示」は変更できず、時代や環境の変化に即応できない(「月額○〇円」の価値が下がることも考えられる)
⑦Tひとりが責任を負うが、遺言者に信頼され遺産を多く受け取るので嫉妬が生まれ、他の家族から孤立していく可能性がある。
付け加えた「7つの欠点」は、ちょっと辛口すぎるかもしれない。
計10個の欠点は、負担付遺贈の遺言の欠点というより、民法そのものが抱える「限界」だと、私は思っている。
この「民法の限界」を何とかしてしまうのが家族信託だ。
実現したいのは、「遺産を直接妻に渡さずに、しかも妻のために公正に使う仕組みを作る」ということ。
そのため、以下の7つの条件を実現する。
❶娘Tは「母の生活費を託され見た目の財産が増える」が、このことで損も得もしないこと。
❷Tに渡した遺産は、妻の分が含まれているので、ごちゃ混ぜにしない(分別管理をする)こと。
❸万が一Tが死亡しても、妻への給付は継続され、娘Tの相続人のものにならないこと。
❹Tが好き勝手に財産を使わぬよう、他の家族がチェックできるようにすること。
❺遺言のような単純な指示で終わらせず、環境変化に順応できるようにすること。
❻その「仕組み」を、父甲が生きているうちに作ること。
❼甲が亡くなった後もその仕組みは存続し、母の晩年を守ること。
つまり「負担付遺贈の遺言の欠点」すべてをクリアし、しかも甲が生きている間に仕組みを作り上げる。
そんなことができるのだろうか。
家族信託を使えばできる。
まず、「母以外の者に財産を託す」ということを、信託法を使って実現させよう。
<イラストD>を見てほしい。
妻を守るのが目的なのに、なぜ夫が登場してくるのだろう……。
(おっと、イラストを間違えた!! わけではありません)
認知症の妻のための対策なのに、なぜ夫甲がイラストに登場してくるのか。
少しややこしいが、それを説明したい。
妻は認知症を患っている。直接、財産を妻に遺しても、彼女はそれを使えない。
だからここまで、「負担付遺贈の遺言」を紹介した。
妻ではなく、娘に遺産を持たせればいいのである。
しかし、グッドアイデアではあるが、この方法には欠点もある。
だから「家族信託」を登場させる。
家族信託は二刀流だ。単なる認知症対策だけのツールではない。
このようにいろんな困難か予想される相続の場においても、家族信託が強力な援軍となる。
父甲は、80歳の今も頭はキレッキレ、100歳まででも認知症の「に」の字もないだろう。
その甲が、あえて委託者(兼当初の受益者)になるというのが、この信託の工夫だ。
こんな信託である。
①財産は、甲がTに渡す(信託する)。
②渡した後、財産の名義は甲(個人名)から「受託者 T」に換える。
③しかしTは、その財産を自分のためには使わず、甲のためにのみに使う。
④Tが獲得する名義は、Tに「管理権」を持たせるための便宜的なものである。
⑤自分のためには使えない財産なので、Tは「真の所有者」ではない。
⑥Tは、いわば財産管理人としての「名目的な所有者」という立場になる―—わけである。
ここまでが、甲が存命中の受託者Tの役割と立場だ。
大事なのは「②」の名義変更、[財産の名義を委託者名→受託者名に換える]ことにある。
所有者という「人」を代理させるのではなく、「財産の名義そのものをチェンジする」ことで生み出した新手法が信託だ。
この辺は、以前のブログ記事で詳しく書いたので、お読みいただきたい。
《参考記事》■家族信託は「名義」を換えて管理する
この信託は「受益者連続型の家族信託」という。
信託契約書で、あらかじめ第2受益者を決めてあるから、甲が死亡してもこの信託は継続する。
甲が信託した「信託財産」はどうなるのか。
契約書では、妻乙が信託財産の全部を“新たな受益権”として獲得することになっている。
具体的に言えば、自宅不動産に住み続け、残っている信託財産から定期的に給付を受ける権利を得る。
ややこしくなるので書きたくないが、いちおう説明しておこう。
信託契約上は、乙が得たのは受益権だが、税務署は「信託財産はすべて乙が相続した」とみなして、相続税の対象とします。
だから、「財産を信託しているから相続税を免れる」「相続財産に気ならない」なんてことにはならない。
税務署は、信託はないものとして、相続税計算をしていきます。
信託の話に戻ろう。
甲の財産は、見た目には何の変化もないけれど、信託財産とした以降は「甲の財産」ではなく、受託者Tが管理する財産に換わり、甲がそこから得る利得(❶自宅に住み続けること、❷金融資産から生活費や医療費などを得ること)は「甲の受益権」に換わっている。
以上、当たり前の話で、心身健常な甲があえて娘Tと信託契約を交わしたのは、自分の財産を信託財産に換える(それを甲が得る場合は「受益権」という)ためだった。
なぜそんなことをするのかといえば、受益権となった財産を(自分の死後に)妻乙に信託の枠内で承継させるためだ。
妻が甲の財産を受益権として受け取れば、娘Tが受託者として、常にその財産を管理して手渡してくれることになるから。
Tが信託でしていることは、もしTが「負担付遺贈」による甲の遺産を受遺者として得ていたら、“負担”の実行として母乙に定期給付したであろうことと同じだ。
遺言の場合は、甲から相続した財産はTの固有財産になるけれど、受託者Tが得ている(事実上は「管理している」にすぎない)財産は、名目上だけTの財産であり、実質は母のためにのみ使うことができる“きゅうくつ”で宙ぶらりんの財産だ。
委託者甲の狙いは、はじめから自分が他界したときの<妻への財産の渡し方>にある。
きゅうくつな分だけ、甲の遺志は家族信託の受託者Tによって、確実に果たされそうだ。
信託財産はTの固有財産ではないから、Tが死亡したとしてもTの親族に相続され消えてしまうこともない。
さらに「自宅」という信託財産は、契約を交わすときに「将来の売却」を想定していれば、Tはいずれ実家を売却して、母のために使う信託金融資産を増やすこともできる。
乙の介護度が増し、自宅でひとり暮らしができなくなったときが、売り頃ということになろう。
適切なタイミングで売り抜ければ、実家の空き家化も防ぐことができる。
家族信託では、▼委託者▼受託者▼受益者のほかに、▼受益者代理人、▼信託監督人を置くことができる。
受託者の行動を監視するのは、通常は受益者だ。
しかし今回の家族信託のように、受益者は認知症になることが予想されることも多い。
それでは自分の財産がどのように使われるか、チェックができない。
そんな場合に備えて、受益者代理人が受益者と同様の権限を持って、受託者の行動をチェックできるようにしている。
今回は、弟のCが受益者代理人となって、乙の代弁をするのが妥当だろう。
(信託監督人も同様の機能を発揮するが、説明は割愛する)
今回は[「負担付遺贈の遺言」を進化させる家族信託]というテーマが私の中にあった。
信託は負担付遺贈の遺言の欠陥を解消できだろうか、検討結果は以下の通りだ。
負担付遺贈の遺言の7つの欠点は、すべて家族信託が解消している、といってもよいのではないだろうか。
この手法は「認知症の妻」を救うだけでなく、《親なき後の問題》をも解決する力がありそうだ!
知的障がい者、重度の身体障がいをもつ人、薬物やアルコール依存症、ひきこもり、極度の浪費家………………。
これらの人を第2受益者とすることで、成年後見に頼らない道が見えてくる。
親なき後の問題は複雑多岐にわたるので、お金の受け渡しだけで「完全解決」になるわけではないが、親の不安の大きな部分を除いてくれるだろう。
認知症対策と同時に、私は親なき後の問題解決の一手法として、家族信託を磨きこみたいと願っている。
<初出:2019/8/1 最終更新:2024/2/26>
あなたの家でお悩みの問題をお聴かせください。
成年後見制度に委ねるより、家族信託という手法を使う方が悩み解消につながるかもしれません。
家族信託は委託者と受託者の契約ですから、すべての事案でオーダーメイドの対策を講じることができます。
成年後見人は意思能力を失った本人の代理なので、将来へ向けての「対策」は一切できないのです。
家族信託なら財産管理から相続対策のことまで、契約の中に盛り込むことができます。
《このようにしたい》という想いがあれば、受託者に動いてもらえます。
実際にあなたはどのような問題を解決したいですか?
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石川秀樹が専門家としてご家族にとって最良の解決方法を考え、お答えします。
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