★家族信託のゴールとは…… “認知症→資産の凍結回避”は入り口にすぎない、その先の“相続設計”に力を発揮するツールだ!《前編》

家族信託

家族信託は成年後見にまさる認知症対策ツールです。
でもそれは入り口。ゴールではない。
よい承継・相続に使ってこそ威力を発揮するツールなんだと思います。
ところが数年来、銀行口座の凍結問題があったので「使いにくい成年後見よりは信託だ」と書き続けてきました。
でも『焦点は、そこなのか!?』。
気づいたのは、1年前に2冊目の家族信託の本を書いていたときです。
『家族信託はこう使え 認知症と相続  長寿社会の難問解決』
8割方、原稿はできていました。
でも突然、
『違うよな、もう信託の一番の魅力は認知症対策じゃない』と思ったんです。
信託という手法は「相続につかってこそ活きる!」と。
原稿をいったん棚上げして、はじめから書き直しました。

相続のこと、考えなくていいんですか?

家族信託の委託者になる人は、ほとんど高齢の人です。
信託する理由は、[自分の口座を凍結されないようにするため]。
信託すると自分の資産の多くを、受託者に指名した子が名義を取得して管理し始めます。
やれやれ、これでひと安心……
でしょうか?

私もそれなりに歳をとってきたので実感を持って書けるんですが、お金の管理なんて、誰がやってくれてもいいんですよ。
私が必要な時に使えればそれでいい。もっといえば、キャッシュカードを1枚渡せば済む話。
お金の大元を誰が管理してくれようと構わない(私だって認知症の恐れがないわけではないので、ヤバイと思ったらすぐに子に信託しますよ)

そんなことより真剣に考えなければならないのは、その先のこと(うれしい想像ではないですけどね)。
寿命は決まっています。(相続の専門家を名乗っている以上、絶対に自分の相続でもめさせるわけにはいかない!)
これ、考え出すと、ほんとうに簡単ではないです。(子に平等に、なんてあり得ない……ことが分かってきます)
親としては、(いくつになっても)子のことは真剣に考えざるを得ない。

 

母と子は利益が相反する関係ですよ!

私にとって大事なのは、家内のことです。(私が死ねば独りになりますから)
この人を守るのは私の責任。(誰から守るのか。ここは言いにくいですが……)

はっきの言います。子からですよ!(子と言っても40代、50代。妻はその時80を越えているかもしれない)
老いた母をいたわる子もいれば、そうでない子もいるでしょう。
母と子たちとの利益の衝突」——これはどんな家庭でも起こり得る。
ほんとうに世間の老夫婦は、ココがうかつなんですよ。人が好過ぎる!
年寄りは本当に子に対して甘い!。(それが自分や妻を苦しめることになるのに)
うちは大丈夫、なんて一笑に付さないように!!
大丈夫である明白な根拠が複数あるか、あらためて冷静に考えてみてください!

なぜこんなことを今さら言うのかというと、母と子は法律上(民法を読めば明白ですが)利益相反する存在だからです。
民法は「家族主義で血縁第一」です(血が濃ければいつくしみ合う、などという根拠はまったくないのに、この点、実に楽観的で一方的!)

で、以下のように本の[まえがき]を書きました。
でも今読み返すと、なんとも難解。普通の人には読みにくいだろうなと思いました。
専門バカなんですね、私も。
ずいぶんやさしくていねいに書いたつもりでも、字数ばかりを気にしてむずかしい用語を使ってしまいました。
特に「まえがき」の後半。文字に赤い色を付けましたが、この辺はわかりにくい。
《後編》であらためて解説するつもりなので、我慢して読み進めてください。
なんとなくでも『そうか、問題は認知症のことだけではないんだな。相続のことも大変だぁ』と感じていただけたら結構です。

 

『家族信託はこう使え 認知症と相続  長寿社会の難問解決』まえがき

《まえがき》
この本を手に取っていただき、ありがとうございます。
あなたは親御さんの認知症が心配になってこの本を見つけましたか?
それとも、あなた自身がお年を召して病気や認知症のことが気になってきた?
「自分より家内のことが……」という人もいるかもしれませんね。
100歳長寿時代なんて簡単にいいますが、その時代に生きている私たちときたら、自分のお金をおろせるかどうかさえ心配しなければならない
ほんと、生きづらい世の中になってきたものです。人生後半は家族信託を使おう

 

後半人生、銀行がカベになる!?

イラストは、いわゆる「意思能力」のことを説明しようと描きました。
認知症のはじまりはおおよそ60歳くらい。
80歳以降から急カーブを描くように認知機能が低下する人が増えてきます。
その時期から先は、いわば“どしゃぶり”。
青いグラデーションは認知症の進行具合です。
誰もがそうなるわけではないものの、男女合わせた高齢者の2人に1人は認知症を発症するといわれています。

昭和の時代、そんなことを心配する人はほとんどいませんでした。
なんとかなったからです。
令和に入った今はそんなわけにはいきません。
銀行等の金融機関が、口座を止めてしまいます。
老後のためにと貯めてきたお金がおろせない。
高齢者の口座、その多くが定期預貯金になっています。
ほぼ100%、認知症と見られたら最後、銀行は支払いを拒否するでしょう。
「あなたのお金を守るために」といいながら。

 

口座の凍結回避へ様々なツール

本書はまず第1部で、この「認知症 ➤ 口座凍結」の流れを食い止める3つの方法を提示します。
家族信託成年後見制度(法定後見)、それから任意後見契約です。
特に家族信託については、信託パワーの源を分かってもらえるよう、原理にまでさかのぼって詳細に解説しました。

第2部は肩の力を抜いてもらうために、家族信託や成年後見などを使わずに「口座凍結」を回避する方法を提供。
「なんだ、信託・後見を使わないでも防げるの?」といわれそうですが、半分正解、半分???です。
キャッシュカード(❶)や代理人カードを使う(❷)、なんて誰でも知ってそうですよね。
そうです、その通り。
なぜ使わないんですか?
❶は常識だし、❷もちょっと調べれば見つけられること。
銀行の代理人制度もそうです。
予約型代理人サービスとなると、少しむずかしかったかもですが。
でもこれらのツール、強力ですよ。
注意深く使えば、家族信託というめんどくさそうでお金がかかる(?)ツールを使うまでもなく、凍結問題をほぼほぼクリアすることができます。

 

家族信託は認知症対策だけのツールじゃない

「なんだ、そうなのか」と思いましたか?
そんな甘い“読み”だから「口座凍結」ごときであわてふためいてしまうんです。
答えを100%まえがきで書いてしまったら、この本を読む必要、なくなってしまいます。

私が冒頭で手の内を明かしているのは、「認知症_凍結」の話はもうメインテーマじゃない、と思っているからです。
もちろん家族信託は認知症対策に有効です。
だからこのすばらしいツールをみなさんなに紹介し、使ってほしい。
でもその狙いは、単に「凍結解除のツール」としてだけではありません。
その先にある問題の解決のために活用してほしいんです。
先にある問題とは「相続」です。相続が、実は大問題です。

 

「相続」には難題がゴロゴロ

といわれても、ピント来ないでしょうか。
一例を出しましょう。
あなたは自分なき後の伴侶のことがご心配でしょう?当然です。
でもあなたが何もしなければ、母と子たちは必ず利益相反します
なぜなら遺産は、あなたがなくなった瞬間に、相続人に共有されるからです。
共有状態だから、全員で協議して分け方の合意をしなければなりません。

相続人にはそれぞれ法定相続分が決められています。
最低限の遺産獲得保障として遺留分という権利を民法は認めている。
あなたの財産で一番大きいものは自宅。でも不動産は分割できない。
母が自宅を相続すれば、金融資産の取り分はゼロになるかもしれない。
(だって不動産の価値は極めて高い。東京なら1億円を超える敷地なんて、ざらにあります)
この苦境、家族信託が解決します。
不動産をお金と同様の“分けやすい資産”に換えてしまうことで。

 

代替わりの後れ、節税対策、争いの回避……

あなたは収益不動産を持っているのに、いまだに代替わりしていない。
あなたの事業も同じ。後継者さえ決まっておらず、リーダー修行さえさせていない。
後手後手に回っている対策。やればよかったのに時間切れ。
これも家族信託を使えば、何とかなります。
時計を遅らせる効果です。

相続でもめさせたくない
財産をきれいに分けて、なるたけ節税もしたい
「なぜそんなお年になるまでほっといたんですか?」といいたいところですが、これも解決できます
家族信託というツールを使えば、分けにくい財産はなくなり、相続人とそうでない人の境も消え、分けたい人にピンポイントにあなたの想いと財産を届けることができます。

 

家族信託を使い全部を解決!

認知症の話からいきなり「相続に使え」だなんて、話が飛躍しているように聞こえたかもしれません。
しかし冒頭のイラストを思い出してください。
あなたが家族に何かしてあげたいなら、家族信託をするタイミングが最後のチャンスです。
自分の財産を確認し、家族の人間関係を冷静に見て、自分の思いと財産を誰にどのようにつないでいくか、決められるのは今です。
専門家の助言を聴けるのも今
ひとりで考え込まず、家族信託の目的を考える過程で、近い将来にあなたが望む姿を自ら考え実現してください。
家族信託は、そんな時にも力を発揮するツールです。

■   □   ■   □

お読みいただいてありがとうございます。
赤系統の文字の個所、ずいぶん分かりにくかったのではないでしょうか。
おわびします。
これらの難解個所の解説や例示は、本をお読みいただけば分かってきますが、それは言い訳になってしまいます。
この記事の《後編》で、きっちり解説いたします。

(初出:2024/2/24)

 

家族信託は全国対応しています。

あなたの家でお悩みの問題をお聴かせください。
成年後見制度に委ねるより、家族信託という手法を使う方が悩み解消につながるかもしれません。
家族信託は委託者と受託者の契約ですから、すべての事案でオーダーメイドの対策を講じることができます。
成年後見人は意思能力を失った本人の代理なので、将来へ向けての「対策」は一切できないのです。
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静岡県家族信託協会
行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)

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この記事を書いた人

石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
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《職務上のプロフィールについては、幻冬舎GoldOnlineの「著者紹介」をご覧ください》

 

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目次2 『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』

 

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