★よい病院、悪い病院──自分の命だ、患者も家族も真剣にならなければ守れない!

エッセイ

よい病院悪い病院がある。しかし同時に私たち患者(やその家族)も、よい患者・家族悪い患者・家族がいることを自覚していなければならない。
父が脳梗塞で倒れ、混乱のさなかに体験したことから、私はそんなことを強く思うようになった。2回にわたって書いてみたい。

■医師は父の血圧を気にしていた

父は以前から静岡市内のM脳神経外科クリニックに通っていた。
頭脳は明瞭だが、生活面で手抜かりすることが多く軽い認知症が疑われ、念のため毎月受診している。
父は以前、狭心症で緊急入院しカテーテルでステントを心臓の血管に装着してもらったことがあるので、いつもM医師は父の血圧を気にしていた。

しかし90歳近くになっても食べることを日常の楽しみにしている父は、それほどまじめに節食しない。
血圧は高い日もあるが、母のように「200」を超えるほどではなく、本人もあまり気にしなかった。自宅での計測も、ごくたまに思いついてする程度であった。
家族も半分さじを投げている。
何を言っても、きかないのだ。

耳が少し遠いから聞こえないのかと思うと、そうではない。聞こえていても「きかない」。つまり歳を取るとみな頑固になるといわれる、アレである。
子どもではあるまいし、と思いながら、私も何度か”説教”する。口やかましく言うとかえって意地になるのだろう、私の言葉をきかない。
このような事情はM医師に伝えている。
先生はいつも軽い笑みを見せながら聞いていた。
よい先生だな、と思っていた。

 

■報告を聞かず、主張を述べる医師

正月3日の夜、父が突然、脳梗塞を発症した。
その日、救急車でS会病院に運ばれ、そのまま救急病棟で入院することになった。翌日、あらためて父のもとに行き、医師や理学療法士と面談。一般病棟に移った。

Mクリニックを受診する日が2日後に迫っていたので、『行って報告した方がよかろう』とを訪ねてみた。
しばらく待って面会。いつもの調子で先生に話そうとした。
「実は、父が」
「そのことは聞いていますよ」と、私が言い終わる前に医師がピシャリと反応した。

そりゃあ、S会病院から照会の電話は入っただろうよ、「主治医は誰か」と問われたからね。それで看護師か医師が父の様子をMクリニック伝え、脳梗塞発症以前の様子がどんなであったか聴取をしたのだろう。
M医師が、直接見てきた家族の言葉より、プロの医療従事者に聞いたから十分と考えているにしても、私なら「家族の話」は聞く。そこには専門家でない普通の人の感想があり、不正確ではあっても切迫感や家族の心情が伝わるはずだからだ。

がM医師は、手のひらを反すように切り口上のように言った。
「まっ、血圧も守らなかったわけだから」
驚いた。この医師は患者(元患者)の現在の様子にはもはや関心がなく、それより「自分の主張」だけを伝えたかったのだ!

私には──
[罪は、医師たる私にはありませんよ。血圧の注意も、食事の注意も守らずに好き勝手やって、家族もそれを止めなかったんだろうから、こうなっても仕方ないでしょ]
──とでも言いたいように聞こえた。

 

■医師を責める気はなかったのに

断るまでもなく、私がMクリニックに赴いたのは「報告」と今まで診てくれた(実質、血圧のことを毎度問うただけだが)ことへの「謝辞」を伝えるためである。
「何を”防御”してるんだい?!」
と言いたくなった。
黙って聞いていればいいではないか。
「それは大変でしたね」と一言、患者家族を慰撫してくれれば、家族は「ありがとうございました」と言って帰っていくだろうに。
「毎月診ていたのに予見できなくて申し訳ありませんでした」、なんて言葉を引き出したくて訪ねたのではない。

父の身に起きたラクナ梗塞は、血圧が高いとリスクが高くなるという病だった。
これは父が発症して病名を聞いてから慌てて調べた<後知恵>である。
そういう観点からこの”事件”を振り返れば、M医師のあの態度も分からなくもない。
《しかしMは男を下げたな》と私は思った。

「まっ、血圧も──」発言を聞いて、瞬間、私の血が逆流しそうになった。
こうなると俺は抑えが利かず言ってしまいそうだ(と思った)が、今回は踏みとどまった。
殴ってやりたいくらいだが、父の今後に尾を引かないとも限らない。

 

■患者家族として私が甘かった!

元々Mは総合病院のK病院の脳神経外科で診療副部長まで務めた人だ。脳卒中の専門家というより、組織のことを考えられる人なのだろう。降りかかりそうな火の粉はこうやって避けてきたのかもしれない。
こんな人物に対して、私がなぜ臓腑が煮えるほど怒りを感じたのか、理由がわかった。
私はMを信頼していたのである。
当たりのよさにいい気になって、家庭での父の様子(マイペースで自分を変えない)まで愚痴交じりに話していた。
今回こちらの言を逆手に取るように、「”守らなっかったわけだから”発言」になった。
それが衝撃だったのだ。

患者家族として私が甘かった!
なぜ血圧のことをあれほど気にするのか彼はただの1度も私に説明しなかったが、いまようやくわかった。
そして、医師が私の言葉をさえぎってまでも自分の主張を先に述べた理由も。

私は、父がこのクリニックに通うのは認知症がひどくなるのを防いでもらうためだと思っていた。が、M医師は脳卒中の専門家として、専門中の専門分野である「脳梗塞」の発症の可能性を初めから意識しており、それゆえ実際に起きてしまったときにいち早く善人のふりをやめ、家族から「なぜ防げなかったのか(あんた、専門家のはずなのに)」──と追及されることを封じたのだ。

 

■父よ、ゴメン! 私が甘く見ていた

おやじ、ゴメン!
俺は医師が毎度血圧のことばかり言うのに、「なぜ血圧ですか?」と問いもしなかった。脳卒中(脳梗塞と脳溢血が代表的症例)と血圧の関係をもっと深く知っていれば、厳しく減塩を言い、食事についてもうるさく注意しただろうに。

ここまでM医師を「医者の風上にも置けない」ように書いてきたが、公平に言えば、医師としては優秀な方なのだと思う。少なくとも、的確な予想を持っていたわけだから。
強く「ああせい、こうせい」と指示しなかったのは、患者も、その家族も《やる気がないな》と思ったからだろうか。
それで終わってしまったのは残念というほかないが、それをもって「医師の責任」というなら私たちの甘えであろう。

危険であり、発症してしまえば重大なことになるとわかっている病を抱えていたのだから、本人も、家族ももっと真剣にわが身のことに対峙すべきだった。
名医を名医たらしめるのは患者であり、その家族でなければならない。
医師の言葉を受け止め、会話が成り立つほどの理解力をもつべきであろう。
医師の説明が足りないなら、私はもっと詳しく聞いてリスクを知る必要があった。

父は心臓にステントを入れている。
血管系のリスクを持っていることは明らかだった。
M医師が脳卒中の専門医であることさえ(それ故、血圧のことを気にしていたのだろう)、こんな対応を受けて初めて調べる気になり、その事実を知ったわけで・・・・。
気づくのが、遅すぎる!

よい病院悪い病院がある。
同時によい患者悪い患者も。
自分の命の問題なのだから、家族もよい家族たるべきだった。

後の祭りというにはあまりに過酷な結果が父の身に起きてしまった。
患者家族としての私の不勉強が悔やまれる。
父に申し訳ないことをした・・・・。

《延命を考える》関連記事 =掲載日順

2016/1/12
★延命したいなら「鼻からチューブ」。父が脳梗塞、家族は突然に決断を迫られる!
2016/1/19
★父の「鼻からチューブ」で考えたこと。延命の可否、軽々には決められない!
2016/1/22
★父の病室にて 『人間なんて…』と思わないようにした………
2016/1/24
★よい病院、悪い病院──自分の命だ、患者も家族も真剣にならなければ守れない!
2016/5/5
★「延命のための延命は拒否」でいいですか⁉ 最期の医療めぐるおかしな“空気”
2016/6/3
★「寝たきり100歳社会」の悪夢、だって!?──人間はスゴイぜ!生き抜かなければ人生の価値は分からない
2016/6/5
★「延命のための延命は拒否」だって⁉ 命の問題に“空想”は無用だ!
2016/7/2
★延命処置、始めたら本当に止められない?! もっと”出口”の話をしませんか?
2016/7/27
★鼻チューブ・嚥下障害……やがて口から摂食。父は”今の自分”を生き切っている!
2016/9/16
病院よ、医者を見ずに患者をみてよ! 「診断書」遅延でわかった医療機関の体質
2017/1/3
★「鼻チューブ」から満1年、父は「花ひらく」と書初めした!
2017/6/22
★延命に対するあえて”私的なお願い書”!「尊厳死」などと猛々しくなく
2018/6/8
★延命拒否より“命を使い切る”選択!原点から180度変化した私
2018/6/26
★《決定版!》最期の医療へ「私のお願い書」、軽々しく「延命拒否」とは書かない!!
2019/4/10
★『大事なこと、ノート』第5刷でPDF版に!エンディングノート的要素を外し、百歳長寿時代を生きるためのノートに変えました
2022/12/7
★気軽に<延命拒否>だなんて言うな ! 今の医療は即実行。考え抜いて決断しないとヤバイ。『大事なことノート』活用下さい
2023/1/30
★『大事なこと、ノート』を刷新、PDF版に! 自身の後期医療を託す《医師へのお願書》付き
 番 外  
★『大事なこと、ノート』PDF版の申込メールフォームです(無料)

<初出:2016/1/23 最終更新:2022/11/3>

静岡県家族信託協会
行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)

サイトのトップページへ

この記事を書いた人

石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
《私の人となりについては「顔写真」をクリック》
《職務上のプロフィールについては、幻冬舎GoldOnlineの「著者紹介」をご覧ください》

 

家族信託に関心がありますか? ※最新パンフレットを差し上げます
家族信託パンフ申込QR一般用家族信託の本出版に合わせ、より分かりやすく「家族信託」をご案内する16㌻のパンフレットを作りました。
家族信託は二刀流です。(A)認知症対策だけではなく、(B)生前の対策や思い通りの相続を実現させる最強のツールです。
AとBのテーマに合わせてパンフレットは2種類。資産状況やご自身の常況を記述できるヒヤリングシート付き。
紙版は郵送(無料)、PDF版はメールに添付の形でお届けします。このメールフォームか右のQRコードからお申し込み下さい。

 

◎おすすめ「家族信託の本」 
(※画像クリック・タップしてAmazonで購入できます)

▲『成年後見より家族信託……』

▲認知症対策の定番、ベストセラー

家族信託はこう使え

▲相続対策に使う家族信託の本

▲上記の本を改題(Kindle版)

▲最左の本を改題(Kindle版)

<「目次」のリンクから2つの本の“注目記事”をお読みいただけます> 
目次1 『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』
目次2 『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』

 

関連記事

静岡県家族信託協会の仕事

週間ランキング

  1. 1

    ★認知症の母の定期預金を解約できますか? 委任状は通用しない。銀行は自宅に電話し意思確認。困ったら「金融庁」の名を出そう

  2. 2

    《完全版》★使ってはいけない「成年後見」。認知症対策の切り札にならない。その災厄は家族を巻き込み、離脱できず苦悩が続く!

  3. 3

    ★父の“鼻からチューブ”で考えたこと。もう「延命拒否」とは言わない!

  4. 4

    ★任意後見契約はおすすめしない。認知症対策を誤らないでください!

  5. 5

    ★令和の銀行あるある。70歳になるとATM引出し上限1日10万円!年齢差別あり。認知症懸念あれば無策でいるとヤバイ!

  6. 6

    ★代理人カードを使え! 認知症による口座凍結を当面は回避できる。あくまで暫定ツール、限界が来る前に次のステップに進め!

  7. 7

    ★なぜ銀行は、親の認知症を知るのか? 本人への意思確認は[委任状 ✕→本人に直接電話 〇]。難しくなった家族の代理!

  8. 8

    ★「父が軽い認知症」と話したら1億円の土地登記を断られた!父と家族信託契約を結べば、受託者の手で再び売買契約を結べる

  9. 9

    ★延命したいなら「鼻からチューブ」。父が脳梗塞、家族は突然に最終決断を迫られる!

  10. 10

    ★こんなにある!認知症になるとできなくなること。自己決定権を奪い、その“災厄”が家族を巻き込む

★よくわかる家族信託の本、発売中!

全国の主要書店で発売中。
Amazonでも購入できます。
<著者石川が無料で相談にお答えします>
上記の本の読者は、本文中のQRコードから「家族信託パンフレット申込フォーム」等に跳びメールを送信ください。著者の石川が質問・ご相談に直接お答えいたします。

★私のおすすめ記事1

  1. ★相続までの「時間差」が20年余 ! ! 楽観消し飛ぶ老後、自身や妻の行く末守れますか!?

  2. 《家族信託事例》★受託者が遠方でも家族信託はできますか?大丈夫、社協の自立支援事業と連携しましょう

  3. ★家族信託で親の預金をどう渡す? 受託者が遠くに住んでいても大丈夫、自立支援事業があります!

  4. ★脳障がいの兄がいるのに、母に認知症のきざし。成年後見でなければ救われませんか? 受益者連続福祉型信託の出番です!!

  5. ★妻に全財産を相続させる”魔法の1行” らくらく遺言 <文例1>

★家族信託へ2つのパンフレット

家族信託は二刀流です!
認知症対策だけでなく相続対策
にも使えるツールなんです。

家族信託のパンフレット

パンフレットをどうぞ
2冊目の「家族信託」の本出版に合わせて家族間契約の手引きになるパンフレットを2種類作成しました。ヒヤリングシートも用意。無料で郵送、またはPDFファイル版はあなたへの返信メールに添付します。
申込みはコチラのメールフォームから。

★私のおすすめ記事2

  1. ★『監察医 朝顔』の父・万木平さんが認知症!? 悩みを共有する「家族の力」

  2. ★待合室にて、話がやまない老婦人の孤独 「ぜ~んぶ、自分だから……」

  3. ★節税ばかにならないで!相続税は高くない。 遺産1億でも実効税率は4%弱

  4. ★「認知症だから成年後見、と思い込まないでください!』成年後見と家族信託はこんなに違う。ケアマネさんを前に熱弁、レジュメ公開しました

  5. ★「成年後見人をつけなければ財産が国に持っていかれる」だって⁉ 認知症の専門医がミスリードでは困る!!

★家族信託などの料金表

★鎌倉新書で家族信託

「鎌倉新書」が運営するサイト「相続費用見積もりガイド」に私の事務所をページを設けました。
私は家族信託遺言を中核ツールとして全国で《相続対策》を行っています。
事例も紹介していますので、ぜひご覧ください。
ロゴから私の紹介ページにジャンプします。

 

 

★家族信託は全国対応しています

TOP