★父の病室にて 『人間なんて』と思わないようにした・・・・

エッセイ

父の病室でこんなことを思った。

■「個室」より「4人部屋」の方が安全

この部屋はベッドが4床あるので、人がひっきりなしに往来する。
個室にしてもよかったのだが、救急車で担ぎ込まれたその日、病棟の説明をしてくれた理学療法士さんは、
「容体が安定するまで、できれば4人部屋にしてください」と言った。
”異変”に気づきやすいというのだ。

病室にいるとその意味がよくわかる。
父のベッドは四方を鉄柵で囲まれている。
一種の拘束状態。
転落防止だそうだ。
確かにこの状態で床に転げ落ち、誰も気づかなければ病態は一気に悪化するに違いない。

父は今でこそリハビリを開始しているが、当初の数日はトロトロと眠ってばかりいた。
自分で寝返りを打つどころか身動きもできない状態だから、転落の危険はまずない。
だからと言って父を他室に移す気にはなれなかった。

この部屋は人の気配がいつもある。
療養介護される人と、する人と。口がきける患者もいるしそうでない人もいる。
病室スタッフは分け隔てなく誰にでも、「〇〇さ~ん!」と声を掛ける。
その声は父にも届いているだろう。
この部屋にいれば「孤独」からは免れる。
いつも近くに、共に病と闘っている人がいる。
闘病を支える人たちがいる。

 

■着の身着のまま、ただ「患者」であること

父が救急車でこの病院に来たとき、着の身着のままである。
当たり前のことだが、病院には日常生活に必要最小限の物以外持ち込めない。
比ゆ的にこの状況を言えば、ほぼ”裸同然”だ。
富者も貧者も、老いも若きも、病篤い者も軽い者も一切平等。
ただ「患者」である。

お見舞いについて私は当初、「家族のみ」にしか許さなかった。
父の状態は人にお見せできるものではなかった。
一時、自分の唾液を飲み込めず誤嚥性肺炎を起こし、状態が悪化したことがあった。
心配した。
『このまま会えなくなってしまったら』
というわけで、親しい親族だけには病名と病室を伝えた。

親しい者の見舞いは、うれしくはあるだろう。
父も脳梗塞により回らなくなった口で「あ・り・が・と」と、きわめて聞き取りにくいがそのようなことを言う。
でも、とても大変そうだ。

家族としては、父の状態が回復しリハビリ病院に転院できるようになっても、お見舞いラッシュは遠慮申し上げたい。
ご心配はありがたいが、静かにしておいてくれる方が親切だ。
当分の間、父は個室で談笑できるようにはならないだろう。

 

■「自分の意思」なんて病の前では・・・・

リハビリが今後どのようになるか、見当もつかない。
脳梗塞の影響は軽くはないようだ。
歳もあと2日で90歳である。
卒寿の日をこんな形で迎えるとは・・・・。

そしてその先の希望もだいぶ変わってしまった。
回復するもしないも、父の意思次第である。
だがその意思はきっと、体調に著しく左右される。

私などは、「人間には自分の意思がある」と信じてきた。
しかし父を目の前にして、その思い込みは傲慢だったなと思う。
気力だ、根性だ、執念だといっても、それは体力のある側の話。

父はいま、どちらの側にいるのか。
脳内はいまだ混乱の中にあり、「それどころじゃないぜ!」と言っているのかもしれない。
たまに、もごもごと何かを伝えようとしているのだが、解読できない。
もどかしい。
こちらもだが、父の方がもっと。

『人間なんか』と思い始めている自分がいる。
脳の血管1つ詰まっただけで・・・・・
いけない、いけない、ろくな思案が浮かんでこない。
リハビリ病院に転院すれば、もっと前を向いて展望できるだろう。
そろそろ病室をあとにすることにした。

<初出:2015/1/22>

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静岡県家族信託協会
行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)

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この記事を書いた人

石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
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