★家族信託とは何か/財産を先に託して“管理権限”を与え、私のためのみにお金を動かさせる財産管理手法

家族信託

静岡県家族信託協会では、家族信託の契約書作成とコンサルティングを行っております。
このページでは、「家族信託とは何か」について解説いたします。

 

家族信託」とは、信託法が平成19年に改正されて以降広まってきた、新しい『財産管理の手法』です。
財産を持つ人が、一定の目的のために、その所有する預貯金や不動産をあらかじめ信頼できる家族などに託し管理権限を与え、私のためのみにお金を動かさせる財産管理手法です。
家族信託には、遺言代わりに使うとか、事業承継やM&Aに活用するなどさまざまな用途がありますが、ここでは静岡県家族信託協会が特に力を入れております「家族信託による認知症対策」に絞ってお話しします。

 

人生100年時代と言われるように、日本は超長命社会に突入しています。
80歳で人生が終わるのではなく、さらに20年を生きることを考えなければならなくなってきました。
お金(老後資金)が足りるのか、という心配に加え、「認知症」が暗い影を投げかけています。
認知症は奇妙な病気です。一種の脳の機能障害。
人間をロボットに置き換えて考えれば、頭脳の一部回線が誤作動を起こしている状態です。
はじめのうちは物忘れが強くなる程度で、ふだんとあまり変わりません。
ただし、放っておくと症状は確実に進行し、さまざまな症状が出てきます。

そうなると、対策は急がなければなりません。
なぜなら日本という社会が、急速に「認知症」に対して厳しくなってきているからです。
一例をいえば、銀行による預金の凍結です。
口座の名義人が認知症にかかっていると知るや、銀行は独断で口座の取引を凍結してしまいます。
「本人さまの意思が確認できないので」というのが、その理由。

 

「本人の意思」を持ち出されると、民法のことから話さなければなりませんね。
「代理」という言葉はご存知ですね。
銀行は「凍結を解除したいなら成年後見人をつけてください」と言います。
民法に規定のある成年後見制度は、「委任と代理」という観念から成り立っています。
「任せるよ」「わかった、代理します」ということが成立するのは、任せる人の意思能力がはっきりしているからです。
ところが認知症が深刻化すると、自分のことさえわからなくなります。
そういう人が「任せた」といっても、民法ではその委任を認めません。
それだとこの人は誰にも委任できずに困ってしまいますから、民法は、
家庭裁判所を責任の矢面に立たせて、「公的な代理人制度」を設けたのです。
これが成年後見制度です。

 

これら対し家族信託は、平成19年(2007年)からスタートした新信託法によっています。
「委任―代理」ではなく、財産そのものに着目しました。
委託者(A)が財産を受託者(B)に託すと、その名義は「A→B」に換わります。
※下のイラストをご覧ください。「名義を換える」というのがポイントです!

 

家族信託の仕組み

 

家族信託には3人の当事者がいます。
委託者・受託者・受益者の3人。
しかし実際には、上のイラストでお分かりのように「委託者は同時に受益者でもある」という“一人二役”の状態になります。
委託者は信頼する家族に財産を預け、その財産から得られる利益(受益)を少しずつ自分に返してもらうのです。
(名義は換えたものの、財産から生まれる利得は自分に戻してね、というのが信託の根本原理です)
信託財産を管理するのは、信託契約によって“形式的な所有者になった受託者です。
委託者が受託者に財産を預けるときにも、逆に受託者から委託者に財産を給付するときにも、贈与税はかかりません。
“実質的な所有者
である委託者からすれば、自分の財産を返してもらっているだけですから。

 

すでに所有権は受託者に移っていますから、委託者が認知症になっても、財産はなんらの影響も受けません。
また委託者が、自分が死亡した以降の第2受益者を定めていれば、委託者の死亡以降も信託は続き、「私の財産をこのように管理してね」という委託者の意思は、なおも継続します。
第2受益者以降の受益者は、親族に限りませんので、次の受益者、そのまた次の受益者まで、自由に決められます。

 

「信託目的」は何を目的にしてもいいのですが、最近は、自分が認知症になることを想定しての“お願い”が増えています。
例えば、認知症になると預貯金が銀行に凍結されてしまうので、前もって家族に金融資産を託してその用途を決めておく、ということがあります。
不動産の所有者が認知症になると契約ができませんから、不動産の売り買いはできなくなります。
それでは困るので、自宅を信託して「いざとなったときには家を売って、私の介護費用に回して」といった家族信託の例が急増しています。
また、自分の財産を信託しておき、その財産を(自分ではなく)委託者が行く末を案じている人を第2受益者にして、その人を守っていく、という事例も増えています。
認知症の配偶者、知的障がい、精神障がい、ひきこもり、浪費家の子などを第2受益者とする例です。

 

受託者には家族や親族がなる場合が多いので、高額な報酬が発生しないことも家族信託のメリットです。
成年後見人の報酬は「年間36万円から72万円+α(特別報酬)」ですが、実は、後見費用は数百万円から1千万円を超えることになります(後見は、被後見人が亡くなるまでずっと続きますので)。
家族信託も長期に渡る契約ですが、受託者は家族であり、無報酬で行うことが大半なので、ランニングコストはかかりません。

 

家族信託は、収益不動産を持つ人や資産家のためにあるのではありません。
家族の安心を確保するために、財産を家族のひとりに託し、委託者本人や他の家族を末永く見守っていくための仕組みです。
自分の近い将来や、家族の未来に不安をお持ちの方は、家族信託という方法があることを知り、活用していただきたいと思います。
静岡県家族信託協会は、全力でをあなたの選択をサポートいたします。

 

<最終更新:2022/11/3>

静岡県家族信託協会
行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)

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この記事を書いた人

石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
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