2022.01.07
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実家の父が認知症!? 心配だから家族信託をしたいけれど、近くに専門家が見つからない。どうしよう……。 こんな方、少なくないのでは? 誰に相...
2022.01.07
実家の父が認知症!? 心配だから家族信託をしたいけれど、近くに専門家が見つからない。どうしよう……。 こんな方、少なくないのでは? 誰に相...
もっと家族信託! 石川秀樹のブログです
遺言を書くのは面倒・・・・・・・・・。
その気持ちは、よ~く分かる。
(気が乗らない、まだ早い、縁起が悪い・・・・私もそうでした)
でも遺言は、思い立ったらその場で書かなければダメ。
これは、自筆遺言ゼッタイの鉄則だと思う。
きょう、ドキッとする電話をもらった。
先日92歳の老婦人のお宅を訪ねたのだが、同席してくれた甥御さんからだった。
「おばが・・・・」
自宅で転び大腿骨を骨折してしまった、という話。
大事に至らなくて本当によかった。ホッとしました。
と同時に、もう一つ私は胸をなでおろした。
実は、伺ったその日に、その場で、自筆の遺言を書いてもらっていたからである。
目次
《こんなこともあるんだなぁ》
危ないところだった。
骨折ではなく、亡くなってしまうことだってある。
老後は何があっても不思議ではない。
亡くならないまでも、大けが、入院を境に急に認知症状が出て遺言が書けなくなるというのは、割とよくあること。
だから、遺言する意思が明確な場合、私はその場で自筆の遺言書を書くことを必ずおすすめする。
”緊急避難”的な意味である。
自筆の遺言には、
何が起きたとしても、これだけは実現させたい、ということだけ書く。
だから1行でも、2行でも構わない。
「〇〇に私の財産のうち、△△(財産の内容)を相続させる」
最も重要なことだけ、簡潔にズバッと書く(もちろん私がアドバイスする)。
あとは住所と名前と日付を書いてハンコを押せば自筆遺言書は完成。
この自筆の文書は、公正証書遺言と同じ効力を持つ。
《起きそうもないことのために、なんと、乱暴な・・・・》
と思うだろうか?
確率的に言えばその通りではある。
でも、計算してほしい。
よく使われる表現───「万が一」。
1年は365日、「万が一」というのは27年と138日に1回という意味。
80歳や90歳のお年寄りがあす亡くなってしまう確率、「27年と138日」に1回だろうか⁈
もっとずっと高い確率のはず。
でも人は「万が一」と思い、100人が100人とも”あす万が一が自分の身に起きる”とは考えない。
こういう発想はやめなければいけない。
自分の想いを自筆遺言として1行でもしたためておく。
5分でできることだ。
手の動きがよほど悪くても、1時間がんばれば書けるだろう。
書ける人は、書いてください!!
こんなことを口に出して言うようになったのは、今年からである。
「まさか」を身をもって体験したから。
私の場合は父のこと。
正月3日、脳梗塞を発症してしまった。
「ラクナ梗塞」と言って、脳の毛細血管が詰まるタイプの梗塞。
「あまり重篤にはならない」と言われているのだが、父は発見が遅れひどくやられてしまった。
あと数日で満90歳になるという時期。懸命にリハビリをした。
一時は鼻からチューブの経管栄養法を脱したのだが現在は、嚥下障害による「ムセ」が強く出るようになり再びチューブに戻っている。
《あんなに食べるのが好きだったのに》
健啖家(けんたんか)だったから、病気になる前は私よりよほどよく食べていた。
最近はやせ細り、気力もかなり落ちてきているようで心配。
きのうの父はきょうの父ではない!
それを実感したこの1年だった。
お会いした老婦人は92歳。
とても頭がシャープで言葉もはっきり。声量もある。
ただ腰をかばって、歩くのは大変そうだった。
ご相談は「書いた遺言書」の添削。
ある人に全財産をあげたいという希望である。
婦人に子はいない。
6人兄弟姉妹の末っ子で、他のきょうだいはすでに全員が他界。
甥や姪が12人もいる。そのうち2人が外国暮らし。
法定相続人が12人である。
遺言を書かなければ相続人全員で叔母(伯母)さんの財産をめぐって遺産分割協議をしなければならない。
でも彼女の心は決まっていた。
大勢の中から相続させたい人はただ1人。
遺言を書こうという決断はすばらしい決断だと思う。
「でも、相続人は12人ですよね・・・・・」
私は《自筆で大丈夫かな》と思っていたのである。
1人に全財産を相続させる。
いとこ同士は仲が良い、でももらえるお金は「ゼロ対全部」
《心にさざ波を立てる人が出てくるだろうな》
もちろん今回の相続人は「兄弟姉妹の子ども(つまり甥・姪)」だから、この人たちに遺留分はない。
婦人が遺言を書いておけば財産の行先は決する。
しかし遺産は労せずして転がり込むお金だから、嫉妬は生みそう。
その場合に出てくるのは、「遺言を書かせたのではないか」「おばさんは認知症だったのではないか」ということ。
婦人に意思能力がなければ遺言書の効力は失効する。
実態は言いがかりでも、争いの元には十分になりそう。
もめごとは起きない方がいい。
自分の意思で遺言したことを証明するには「形式」も大事。
この場合は遺言書を「自筆」ではなく「公正証書」にしておくこと。
公正証書遺言は公証人が本人の意思確認を行い、証人も2人付くから”疑念”を封じる効果はある。
ただし、公正証書にするまでには手続きがあり少し時間がかかる。
出生時から今日までのすべてを集めなければならない。
他に相続人がいないことを確認するため、今回は婦人の両親の戸籍まで必要になる(途方もなくめんどくさい)。
《”魔”が滑り込むのはこういうときだぞ》
それで「下書き」として送ってこられた自筆遺言書を先に完成させることを私は提案した。
一瞬でも、「間(ま)」をつくってはいけないから。
余計な手間だと思いますか?
しかし”つなぎ”としての自筆遺言書があれば魔が滑り込む余地はなくなる。
婦人は別室で遺言書をていねいに書き上げた。
書いた後、さすがにお疲れの様子だったので申し訳なく思ったが・・・・・。
先ほどの電話で「遺言」を公正証書にするのは先延ばしとなりそう。
折れた骨にボルトを入れる手術をするので、早くてもたぶん来春。
《やはり、その場で書くことをおすすめしてよかった》
と思いかえした。
実は、自筆の遺言書と公正証書遺言の効力は同じである。
自筆の遺言は通常、ひとりで書くので本人の意思能力については誰も確定できない。
また簡単に作成できるため時に真贋(しんがん)を疑われることさえある。
だから、これをすすめない専門家は多いのです。
しかし「すぐ書ける」という絶対的な強みを、なぜ彼らは見ようとしないのだろう。
それに、民法は元々「自筆遺言書ファースト」なんですよ!
(普通の方式による遺言の種類)第967条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
※この後、第968条(自筆証書遺言)、第969条(公正証書遺言)とそれぞれの遺言の規定が続きます。
「公正証書遺言の方がエライ」ということではない。
要は使いよう!
もしあなたに「行く末を気にかけたい人」がいるなら、まずその人に対して”してあげたいこと”を書き、自筆の遺言書として残しておいてください。
1枚の紙切れがその人を救います。
思い立ったら、一瞬でも間をあけてはいけない。
ただし自筆遺言について、以下余計なことながら、専門家としてこれだけは追記しておきたい。
(追記)
思いつき結構。ないよりまし。いったん書いて署名とハンコを押し日付を書くこと。
この遺言は応急処置だ。
これで時間が稼げる。
最終的には、子らに異議をいわせない説得力が必要。
意思が明確でしかも説得力があること。
それには専門家にフォローしてもらうことが必要だ。
最後までひとりでやると、失敗する。
遺言は誰にでも書けそうだが、決まりごとが多いので通用しない場合も多い。
自筆遺言こそ、専門家にみてもらう方がいい。
(初出:2016/7/3 最終更新:2024/4/29)
静岡県家族信託協会
静岡県遺言普及協会
行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)
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