★脳障がいの兄がいるのに、母に認知症のきざし。成年後見でなければ救われませんか? 受益者連続福祉型信託の出番です!!

家族信託

「Q&Aコーナー」に深刻な相談メールが飛び込んできました。
事故に遭い高次機能障害を負った兄と82歳の母はふたり暮らししている母に認知症の兆し。
「母の預金が凍結されたらおしまいです。成年後見人をつけた方がいいですか?」
「兄にも後見が必要になりますか!?」判断を誤るとダブル成年後見にもなりかねない・・・。 
でも大丈夫、母に判断能力が残存し[誰のために契約をするのか]が理解できるなら、受益者連続福祉型信託で2人を守ることができます。

母のすることは最近、危なっかしい

今回守るべき人は、脳に障害を負い判断能力が低下してしまった独身の兄Aさん(58)。
さらに支えてきた母Sさんにも限界。妹のT子(54)さんは困惑しきっています。
Aさんが事故に遭ったのは30代。以来、気が散りやすく時に感情を爆発……。
というわけで仕事は続けられず、今は自宅にこもりきり。
母Sさんも近ごろは判断力の好不調が激しく、何度も不要な高額商品買ってしまうなど、目が離せません。

『認知症!?』という不安わいてきたT子さんは、「母の預金口座が心配」になってきました。
それで私にメール。お会いして詳しい事情をうかがいました。

「守りたいのは兄です。それなのに母が認知症になったら、2人成年後見人をつけなければなりませんか?」
「ダブル後見はきついですね。Sさんに判断力があるうちに家族信託をすれば、2人を守れるかもしれません」
委託者はSさん、Tさんが受託者。
脳障害を負ったAさんを母なき後の2番目の受益者にします
「この信託の本当の狙いは、お母さんの認知症発症への備えではなく、お兄さんの生活を守ることです」
母の財産をT子さんが管理して、母と兄、2人の老後を守っていく家族信託です。

 

信託をすると財産の名義は「受託者名」に換わる

高次機能障害の兄を守る信託

イラストを見てください。お母さんは委託者。そして最初の受益者になります。
「あなたはお母さんから信託された財産を受託者として管理します」
母には認知症による口座凍結リスクがあります。Sさんにこのまま管理させるのはまずい。
だから管理者をT子さんに換える。
ここまでは、典型的な認知症対策信託です。

なぜ信託すると母の口座は凍結されなくなるのか。
信託すると、母は所有者ではなくなるからです。
委託者が信託すると、所有者は「S」ではなく「T子」に移ります
Sさんのお金と不動産の名義は「受託者T子」に変わります。
もはや所有者ではない「S」の口座名義は「受託者T子」に変わっていますから、Sさんが認知症になっても凍結されるわけがありません。

 

受託者は財産管理のための“執事”になる

「えっ、私が所有者になるんですか? それって、贈与では・・・」
「税務署は<贈与>と認定しません。信託ですから」
信託=委託者が受託者を信じて財産を託すこと。
「託す」は「あげる」こととは違います。財産の管理を任せるだけ。
ただし「好き勝手にしていいよ」はなし。「あくまで私のために使ってね」という契約です。

民法では、自分の所有物を管理・運用・処分(つまり「使う」ということ)できるのは所有者だけ。
だから信託法では、受託者に管理・運用・処分権限を与えるために、財産の名義だけを受託者名に変えてしまうのです。
書けば簡単ですが、実際にはややこしいですよね。
名義だけ見ても、所有者なのか信託の受託者なのか、わからない。
そこで信託の名義は「T子」ではなく、「受託者T子」と表現させるのです。

これなら「んっ!?」と注意を喚起されて“何か特別な役割を持つ人”ってわかるでしょう?
なぜ“特別”なのか。
受託者T子は、お金や不動産を託され管理・運用・処分はできるけれども、財産を「自分のもの」にはできないからです。
この点「受託者T子」は、純粋な所有者である「T子」とはまるで違う存在です。
「受託者T子」は、いつも信託した人(つまり「委託者S」)のために財産を管理します。
具体的に言えば、「信託目的」にそって
❶Sに自宅に住んでもらう
❷Sに生活費などを定期給付する
❸Sに医療費や介護費用などを必要に応じて給付、または病院・施設等に直接振込む
お金は信託用の預金口座から支出することになります。

受託者は外見上、民法における「代理人」と同じようなことをしています。
しかし、それをできる根拠は<Sの代わりのT子>という「人」という属性に依っているわけではありません。
財産の“特殊な所有者”である」というへ理屈を使っているわけです。
「受託者T子」はお母さんの“執事”になるために財産管理権限を与えられたわけです。
執事は、受益者のために信託財産を使って何くれとなく面倒をみることになります。

 

大切な人を親なき後の「第2受益者」にして守る

以上が「信託する」とはどういうことか、の説明です。
さて今回は、兄Aを母死亡後の2番目の受益者にするというのが“キモ”です。
信託財産はSさんのマイホームと現金等の金融資産でした。
母の存命中、財産は凍結されることなく、必要なときに母のために使うことができました。

その母が亡くなったら今度は、受益権が兄のものとなります。
財産管理のための執事であるT子さんは、母に続いて兄のために財産管理をすることになります。
信託をしないまま母の認知症が進行すれば、銀行口座の凍結は必至でした。
そうなれば、資産はあるのに「意思能力」を問題にされて預金をおろせず、母と兄は共倒れになっていたはず。
先手を打って、乙さんの財産を家族信託により“安全な口座(信託口口座)に隔離”したのは正解でした。
※受託者が管理する口座を[信託口(しんたくぐち)口座]といいます。

今度は母が遺してくれた信託財産で、脳機能障害の兄の生活を守ります。
「母Sの信託受託者」だったT子さんは、受託者の任務を続けてAのために財産管理をする執事となります。
Aが得る受益権は、❶実家に無償で住み続けること、❷生活費の定期給付、❸医療・介護等の費用を随時給付、そして、信託金融資産が乏しくなったり、Aが介護施設に入るため大きなお金が必要になる時には、❹実家を売却して、その金銭から給付を受けること――などです。
以上を「親なきあとに大切な人を守る信託」といいます。
受益者連続福祉型家族信託の代表的な活用法
です。

 

大きなお金を「使えるお金」に換えておく

この信託に困難な点があるとすれば、Sさんが信託財産を作れるかどうかです。
認知症が進んでいない今なら、定期預金の解約や株や投資信託等からの撤退もできるでしょう。
ただし、急ぐ必要があります。「預金凍結」に遭ったら、もう何もできませんから。

Sさんは日本のお年寄りの典型です。本当に定期預金が大好き。
銀行や郵便局に言われるまま、老後のために大事なお金を動かしにくい定期預金に換えてしまいます
またSさんは、兄と妹を保険金受取人とする生命保険に、それぞれ別個に入っています。
これも銀行から勧められて契約したものですが、意味が分かりません。
相続税が発生するほどの資産家ではないので節税を考える必要はなく、ただただ自分の老後資金の使い道を狭めているだけです。
どうか、間に合ううちに大きなお金を”使えるお金”に換えておいてください

今の銀行は、「認知症」のお客さまにやさしい対応をしてくれません。
『いつの間にこんなに”差別的”になってしまったのか』と驚くほど。
認知症の不安が少しでもあるなら、「定期預金」は即刻やめて普通預金に置き換えておくべきです。
また死亡保険金は解約して、信託財産を増やす方が母子2代が安心して暮らせるようになるでしょう。

 

あなたが財産管理する方がうまくいく!

もしSさんの認知症が進んでSさんに成年後見人が付されてしまったら、お兄さんはどうなるでしょう。
成年後見人は「本人(Sさん)の財産を守るため」にしか働きません。
Sさんは親として当然のようにAさんの生活を支えてきました。精一杯のことをしてあげてきたと思います。
その母に成年後見人が付くと、(母の財産をなるたけ減らさないようにと心がけ)兄に対しては扶養義務の範囲で必要最小限の給付を行うようになるでしょう。

Sさんが亡くなると、成年後見人の任務は終了し、のこった財産を兄妹で相続します。
母の遺言はありませんから、兄妹で遺産分割協議を行わなければなりません。
兄はすでに判断能力を欠いている常況。
話し合えないのでAさんに対して成年後見人をつけざるを得なくなります。
(母の成年後見人が横滑りして自動的にAさんの後見人を務めるということはありません。新たに後見開始の審判申立をしなければなりません)

兄のための成年後見人は遺産分割協議に参加して、法定相続分を主張して遺産の半分を得ることになります。
自宅も兄と妹の共有になる可能性が高いため、将来的な売却は難しくなるかもしれません。
(この辺はT子さんの主張次第で、将来の売却含みで遺産分割の内容が変わることはあり得るでしょう)
いずれにしても兄が一部を共有する可能性があり、そうなると売却については家庭裁判所の許可が必要になります。
売却は成年後見人が行ないますから、換価金が得られると成年後見人には特別報酬が発生します。
Aさんへの後見は、Aさんが亡くなるまで続き、継続的に報酬が発生するのはSさんの場合と同じです。
妹のT子さんが、被後見人となったAの財産管理について口を出せることはほとんどありません。

孤立せず、専門家の力を借りて乗り切ってください

まとめ
T子さん、あなたなら母と兄のための“財産管理の執事”役を果たすことができるでしょう。
認知症が危ぶまれるお母さんの負担を軽減するためにも、家族信託を進めた方がよろしいと思います。

成年後見制度については、やや否定的に書きました。
「意思・判断能力に欠ける本人に代わり財産を管理する」という制度運用の本質上、家族はかえって“やっかいな存在”と見られがちなことは事実です。
ただ矛盾するようですが、親なき後に大切な人を守る受益者連続信託の場合は、成年後見制度を活用する道を残しておいた方がよいと思います。

親は子のために全力を尽くしてくれる場合が多いですが、長い年月のことですから当然、“負担感”や“疲労”があっても不思議ではありません。
兄弟姉妹が親がやってきたことをそのまま引き継ぐのは、とても難しいことではないでしょうか。
自分自身の家族もいるでしょうから、親と同じように全身全霊の働きをするのは酷だとも思えます。

T子さんにアドバイスできるとしたら、最後は成年後見人に委ねるという選択肢も残しておいていいということです。
成年後見制度は、被後見人が最期を迎えるまで、後見人等はその責務を果たします。
最後まで責任を放棄しないということは公的制度である成年後見の根幹であり、利点です。
この肝(キモ)は誰でも活用していいんだ、と私は思います。

合わせて、日ごろから地域の社会福祉協議会や、地域包括支援センターのケアマネジャーたちと交流しながら、その人たちの専門知識や技能、知恵を借りて、孤立しないで家族を守っていくことを考えてください。
見ず知らずの専門職後見人が就くかもしれないと思うと不安でしょう。
しかし社会福祉協議会なら「法人後見」の担い手でもあるし、専門家やスタッフも豊富です。
日ごろからこれらの人々と情報共有しておくと安心ではないでしょうか。
日常生活自立支援事業などは、おつきあいするきっかけとしては好適です。

Tさん、まずはお母さんを促して受益者連続信託をスタートさせてください。
受託者の仕事は長い期間になりそうです。
頑張りがゼッタイに必要ですが、孤立は禁物。
相談できる相手として士業等の専門家、福祉関係のスタッフたちと情報共有しながら、大切な人を見守ってください。

<初出:2019/1/28 最終更新:2024/5/11>

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この記事を書いた人

石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
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