★夫婦を共に守る《第3の道・自立支援事業!》信託が難しくても活路あり、社協を頼ろう!!! >前編<

家族信託

家族信託を使うにしても成年後見を活用するにしても、無理難題というものがある。
そんな時には第三の道、社会福祉協議会の《日常生活自立支援事業》に目を向けてほしい。

父が「自宅を売るのはイヤだ」の一点張り

こんな相談をいただいた。
Q.
父は85歳、記憶力が落ちてよく転倒、自宅での生活は難しくなってきています。
しかし父は「自宅で死にたい」の一点張り。しかも子との同居を望んでいる
母は82歳、健康不安があり疲労感がありあり。
「自宅を売って夫婦で施設に入りたい」とこぼすのに、言い出せないでいます。

3人兄妹の私たちにも、それぞれ事情があって……。
「同居して介護できる」という人はひとりもいません。
私は「介護してあげたいけど、私にも持病があるので自信がなくて」。

両親の資産は普通預金が700万円、自宅の評価額は3000万円。
現金が少ないので、自宅をお金に換えられないと行き詰まってしまうかも。
3人とも、両親の医療費・介護費を分担できるほどの余裕はないです。
心配してるけど、どうしていいのかが分からない……。

成年後見では、夫婦を共には守れない!

A.
この問いかけに、「こうすればいいですよ」と即答したいのはやまやまですが、なんとも難しい。
家族信託をするにしろ成年後見制度に頼るにしろ、『無理だろう』が見えてしまう
条件がそろっているなら、一も二もなく《夫婦のための受益者連続信託》を勧めるところだが………
「家で死にたい」と言っている父を、誰が説得できるだろうか。
「同居して親を助ける」という子はおらず、受託者を引き受けるという子もいない。

父が亡くなったら自宅を売り、そのお金で第2受益者の母の生活を支援する、というのが受益者連続信託のセオリー。
これがベストな案だと分かっているが、父親は理解しないだろう。
今ある預金700万円は、いつ銀行に凍結されるか分からない。

だからといって、成年後見制度の利用が良策とも思えないので、苦しい。
自宅売却を視野に入れている場合、家族の1人が後見人等に選任される可能性は低い。
それより何より、後見事務に<負担>を感じる子たちばかりだ。
後見を士業に委ねれば、コストは掛かっても、自宅を売って何とかするだろう。
(父の望みは叶わないが)夫婦がそれで守られるなら仕方ない……(とは思うが)

「ワンセットで守る」が通用しない法曹界

しかし夫婦が共に守られる>という肝心要(かなめ)が、成年後見では保証されない。
この制度が使いにくい理由はいくつもあるが、ココが最大のネックと言える!
そもそも成年後見には、『夫婦を共に守る』という発想がないのだから。

成年後見制度は、判断能力が低下した本人(父)の財産を守り、生活を安定させることが目的。
母親が健常である場合、母親の生活費のためにお金を融通するような制度ではない。
仮に母の生活費を父の財産から支出しようとしたら―—
後見人は家庭裁判所の許可を得なければならない。
裁判所は「父の財産を母の生活費に使うことが、父の利益になるか」を慎重に判断する。
“父の心の平安”を私なら主張するが、当たり前の人情が通用する裁判官は少ない。
法曹界は杓子定規で、私の性分ではおつきあいは到底無理だ(ケンカになっちまう)。

何もしないと母の孤立感が募ってしまう

Q.
このまま誰もが何もしないでいたら、両親の暮らしはどうなりますか?
A.
父は転倒リスクや認知症の進行により、日常生活の危険性が高まります。
現在の預金700万円が夫婦の生活費だけれど、母が代理しての出金がいつまで続けられるかが心配。
せめて要介護認定を受けておかないと、介護サービスも利用できず、自宅での生活が完全に破綻しかねない。

もっと心配なのは、お母さんの方。
足腰が弱っているため、夫の転倒・排泄介助ができず、精神的・身体的に追い詰められる。
介護と自身の老後の不安が重なり、うつ病や認知症を発症するリスクさえある。
身近に相談相手がいない場合、孤立感が強まり、社会との接触が途絶えかねない。
預金が減り続けることは、やがて大きなストレスになるでしょう(凍結を回避できたとしても)。

今訪ねるべきは裁判所に非ず、社協だと思う!

Q.
兄妹3人のうち、誰かが手を出すとしたら、家族信託と成年後見とではどっちがいいですか?
A.
結論を急がないでください。まずあなたが落ち着いて。
いきなり知らない制度や仕組みに駆け込む前に、まずご両親の態勢を整えましょう。
尋ねるべきは士業(司法書士や行政書士)でも、家庭裁判所でもありません。
お近くにある社会福祉協議会(社協)の生活相談員や福祉相談員を訪ねてみてください。

1. 現状の可視化と問題の整理
社協の相談員は、家族内の役割分担、親の財産状況、子供たちの経済状況をヒアリングし、現状を「見える化」してくれるでしょう。
母親は相談することで、自分の悩みを第三者に吐き出せるので、自分ひとりで抱え込まずに済みます。

[2.成年後見制度だけでなく、多様な支援策を提示してもらえる]
社協は成年後見制度への申立サポートもしています(最後のよりどころになるということ。士業を訪ねるより親切でお金もかかりません)。
とはいえ、それは最後でいいでしょう。
それより社協は、地域の福祉サービスや介護保険の利用可能な枠組み、生活支援の制度なども網羅しています。
介護保険の申請」や「見守りサービス」「緊急通報システム」など、まずは小さな支援から始めることができるんです。

[3.金銭的負担を軽減できる可能性もある]
成年後見制度は申立費用がかかるうえ、後見人報酬の支払いが発生する。
しかし、社協の支援は無料または低額で受けられます
もし両親の生活が困窮しても、いきなり<自宅を売る>などという乱暴なことをせずに、社協を通じて生活支援費緊急貸付制度の利用もできるので、その面でも安心感があります。

[4. 家族間のコミュニケーションの調整]
さらに社協は、「家族会議」のような形で、親族が集まる場を設定してくれる場合もあります。
兄弟間の役割分担や、父の財産を妻のためにも使えるように「生活費負担の取り決め」を第三者の立会いのもとで行えるので、公平であり、兄妹間で“負担”をめぐって争うことも予防できるでしょう。

事前に相談内容をまとめ、母に付き添ってください

Q.
わかりました。社会福祉協議会ですね。
社協に相談する場合の、具体的なステップを教えてください。
A.
母は今、『自分ひとりで問題を抱え込んでいる』という感覚でしょうから、あなたと一緒に訪問した方がいいですね。
心強さを感じてもらうことが大事です。
その上で、以下のようなことを検討し実行に移します。

  1. 相談内容の要点をまとめる
    • 現在の父親の健康状態と母親の精神的・肉体的負担
    • 父親の「家を売らない・同居したい」という強い主張
    • 兄弟間の協力体制が脆弱であること
    • 家計の現状(預金700万円+自宅の評価が3000万円であること)
    • 現金化の優先度と、母親の生活費の確保
  2. 期待する支援内容を明確に伝える
    • 第一に「日常生活自立支援事業」の導入
      全国の社会福祉協議会が提供する日常生活自立支援事業

      全国の社会福祉協議会が提供する日常生活自立支援事業


      日常生活自立支援事業 認知機能の低下などで判断能力が不十分な方の生活を支える社協の公式支援制度です。 ▼預金の出し入れ▼公共料金支払い▼年金受取りなど―の金銭管理を社協の生活支援員が代行してくれます。また、介護保険申請や医療費助成手続きなど福祉サービスの利用も支援の範囲です。
      • 介護サービスの導入(ヘルパー派遣、デイサービスの利用)
      • 見守りサービスの紹介(緊急通報システムの設置)
      • 生活費の捻出方法(自宅の一部賃貸や将来的な売却)
      • 成年後見制度の検討(法定後見か任意後見かの検討、申立ての流れ、費用の見積もり)
      • ケアプランの作成も急務(地域包括支援センターのケアマネージャーが訪問し、父親の生活状況を把握した上で、必要な介護サービスを提案してくれます)
      • 母親の生活支援(買い物代行、配食サービスも併せて検討)
      • 親族間の調整(家族会議の開催、第三者による調停)

第3の道が「日常生活自立支援事業」だ!

Q.
なるほど、社会福祉協議会があるのは知っていましたが、私や家族とは関係ないと思っていました。
人は歳を取り、しかも認知症になったりすると<福祉的な救済方法>にも目を向けるべきなんですね。
成年後見でも家族信託でもない『第3の道』が日常生活自立支援事業なんですね。

でも、「成年後見には難点がある。夫の財産を妻のためには使えない」と教えてもらったのがショックでした
最後にお聞きします。本当にそうですか? 
「そう」なら、成年後見制度は「後見」の名に値しない。
あまりに杓子定規で法律バカ!
夫婦はワンセットと考えるのが当たり前なのに。
それでは成年後見制度なんか使えない、ということになる。
日常生活自立支援事業を利用して落ち着きを取り戻し、どうしてもお金が足りなくなったら成年後見制度を使おうか、と思い始めていたのに……。残念至極です!
母のことまで守れる、何かよい方法はないんでしょうか?

母のことまで守る方法、後編でまとめます

A.
ふつうはこの場合、法定後見(成年後見や保佐)は使えません。
でもそれではここまで答えて来た意味がなくなっちゃいますよね、確かに。
まず、社会福祉協議会を訪ねてくださいね、必ず。
そして日常生活自立支援事業を契約する
それが最初の一歩です。
大きな安心を一つ得られるわけなので、少し気持ちに余裕が出てきます。
その上で「究極のもしも」に備えましょう

うまくいけば社協とおつきあいを続けて、自立支援事業のみで夫婦の老後を乗り切れるかもしれません。
一方、父の判断力低下が急なら、最後は家族信託か成年後見制度を使いましょう。
今すぐご家族の決心がつくなら、家族信託の《夫婦を守る受益者連続信託》が使えます。
その場合は、信託の仕組み自体が「受益者連続」を前提にしていますから、問題は解決です。

しかし、どうしても父が“夫婦の窮状”を理解できないこともありそう。
その場合は最終的に、成年後見制度に頼らなければならなくなる可能性が高くなります。
ですから今のうちに、「夫の財産の半分は妻のために使う」という法的に通用する文書を作り、後見人等や家庭裁判所が夫の意向を順守しなければならなくなるように準備を進めましょう。
(長くなるので、詳細は<後編>にまとめます

<初出:2025/5/18>

静岡県家族信託協会
静岡県遺言普及協会

行政書士 石川秀樹(ジャーナリスト)

 

全国どこからでもお答えしていきます。

あなたの家でお悩み・お困りの問題をお聴かせください。
遺言だけにこだわりません。人生晩年のことや相続については悩みがあって当たり前。
解決法は、遺言や家族信託はもちろんですが、時には成年後見制度も必要ですし、
ケアマネさんや社会福祉協議会との連携で悩み解消につながる場合もあります。
まずは質問・ご相談ください。専門家として真剣にお答えします。
実際にあなたはどのような問題を抱えていらっしゃいますか?
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石川秀樹がご家族にとって最良の解決方法を考え、お答えします。

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この記事を書いた人

石川秀樹 行政書士

石川秀樹(ジャーナリスト/行政書士) ◆静岡県家族信託協会を主宰
◆61歳で行政書士試験に合格。新聞記者、編集者として多くの人たちと接してきた40年を活かし、高齢期の人や家族の声をくみ取っている。
◆家族信託は二刀流が信念。遺言や成年後見も問題解決のツールと考え、認知症➤凍結問題、相続・争族対策、事業の救済、親なき後問題などについて全国からの相談に答えている。
◆著書に『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』。
◆近著『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』。
《私の人となりについては「顔写真」をクリック》
《職務上のプロフィールについては、幻冬舎GoldOnlineの「著者紹介」をご覧ください》

 

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