2022.01.07
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実家の父が認知症!? 心配だから家族信託をしたいけれど、近くに専門家が見つからない。どうしよう……。 こんな方、少なくないのでは? 誰に相...
2022.01.07
実家の父が認知症!? 心配だから家族信託をしたいけれど、近くに専門家が見つからない。どうしよう……。 こんな方、少なくないのでは? 誰に相...
もっと家族信託! 石川秀樹のブログです
「認知症患者の口座から家族が代理で預金をおろせる!」
2月18日に全国銀行協会(全銀協)が発表した新指針に、メディア各社が飛びついた。
認知症の人の口座が凍結される事象が相次いでいる昨今、「天の助け」と思った人も多いだろう。
でも、違う。そんなにハッピーな話ではない。銀行が頼みとするのは昔も今も「成年後見」だけだ。
指針に安心してはいけない。成年後見制度に取り込まれないよう、本当の対策を今すぐ始めてほしい。
目次
メディア各社は本当に、全銀協が発表した指針の全文を読んだのだろうか。
今までは、家族が銀行窓口で本人の口座からお金をおろそうとして、「母が認知症で」などといおうものなら、途端に態度が変わり、①門前払いか、②「成年後見制度を使って」と促されるか、③最悪の場合は口座凍結に遭う――というのが常だった。
それが今度は、銀行はお客さまの訴えを丁寧に聞き、おろしたお金を医療費や施設入居費用などに充てる場合は、家族による引き出しをも認める、というのだ。「本人の意思確認ができないから、家族の代理はダメ!」の姿勢から一転した、朗報だ!、と叫びたくなる気持ちは分かる。
しかし、早とちりは禁物だ。
どの報道も(新聞もテレビもネットニュースも)「(全銀協の新指針は)成年後見制度の利用が基本」とのフレーズを入れているのに、同じ文脈で後半では「……基本としながらも」と、自らその重い事実をトーンダウンさせている。
肝心かなめの言い回しを弱めて「ついでのように」いうので、誰も気に留めず聞き流す。そして後ろの方で「(認知症の人の)家族も預金を引き出せるようになった」とたたみこむ。すると、前段の「条件」はすっ飛んで、『そうか、家族でもおろせるようになったんだ』と、楽観的な印象のみが刷り込まれてしまう。
『これで安心』と信じ込んでしまった人が多いのではないか。
メディアに悪意や意図的な誘導があるわけではないと思う。
記者やライター自身が、前段の重い意味(成年後見を使わされるとどうなるか)を知らないために、『(今度の指針で)銀行の対処方針は本当に改善した』と思ってしまったのだろう
はっきりいう。
そういうメディアの甘さが、世間をミスリードしている!
全銀協の新指針は、「一歩前進」ではあるが、今までの“かたくなな姿勢”を一転させる、などというほど画期的ではない。
ニュースの故事来歴は、しっかり記憶してもらわないと困る。
一連の話には前振りというのか、伏線があるのだ。
事の発端は、「銀行は困っている家族を助けてくれない」「認知症ならいきなり凍結だなんて!」という世間の批判が広がったことだ。それで監督官庁もようやく関心を示し始め、金融庁は昨年9月「認知症患者の口座問題について、いい答えを出してくれ」と全銀協に要請を出した。問題を突きつけられて銀行側は、やむなく「こっちも努力しました。今後はこのように」と指針を間に合わせた、というのが真相だ。
銀行業界の本音はこうだと思う。
「認知症家族の皆さん、預金をおろしたければ、これからは成年後見制度を使ってくださいよ。その代わり、すぐ(手続きが)間に合わない場合には、特別に、本人や家族の預金引き出しも認めてあげましょう。ただし、(家族の不正による“家庭内紛争”に巻き込まれるのはまっぴらだから)医療費や施設の入居費用など緊急に必要な場合だけにしてくださいね」
私の見方がひねくれていると思われるのは心外だから、NHKのニュースを引き合いに出しておく。
NHKは2月18日深夜のニュースでこう報じた。(少し長いですが、ご容赦ください)
▼全国銀行協会は、認知症の人の預金を引き出す際の銀行側の対応指針をまとめ公表しました。極めて限定的な対応として、法的な代理人ではない親族でも、本人の介護や医療費の支払いなどに限って認めるとしています。
▼認知症の人の預金をめぐっては、本人の意思が確認できない場合、原則として成年後見制度で財産を管理する代理人以外は預金を引き出すことはできず、高齢化が進む中で柔軟な対応を求める声が上がっていました。
▼このため全国銀行協会は、成年後見制度の利用が基本としながらも、手続きが間に合わないなどの場合に限って、代理人ではない親族などが預金を引き出せるとした指針をまとめました。
▼銀行側は、診断書や担当医へのヒアリングなどで認知症の症状を確認し、引き出した預金の使いみちは医療費や施設の入居費用など、明らかに本人の利益になる場合に限るとしています。
▼全国銀行協会は、会員の銀行に指針を周知し対応を促すことにしていて、三毛兼承会長は、オンラインでの記者会見で「銀行界としての対応事例を積み重ね、高齢化社会での顧客本位の業務の運営に向けて、業界全体で改善に努めていく」と述べました。
基本は、あくまで成年後見制度なのだ。
NHKの夜7時のニュースでは、「成年後見制度の適用申請することを前提に」と、踏み込んだ表現も使っていたように記憶している。
(これでは何の意味もない。かえって成年後見の入り口に“強制的に立たされた”も同然だ、と私は思う)
成年後見適用申請することを前提にして預金引き出しに応じるのか、その前提がなくても特例として認めるのか、では、認知症患者がいる家族にとって、天と地ほどの差がある。
そこで全銀協の新指針をあらためて読み返してみた。
指針は、認知症患者の銀行口座との「取引形態」を上の表のように5つに分けている。
このうち特に問題なのが、口座名義人の認知判断能力が「ない」場合の、(2)本人との取引と、(5)無権代理人(親族等)との取引だ(※赤い枠は私が付けた)。
言うまでもなく、銀行は(3)法定代理との取引だけを認めたい立場である。
まず、多くのメディアが飛びついた、(5)無権代理人との取引から見てみよう。
(以下、枠内は全銀協の指針から抜粋)
(1)無権代理人との取引
親族等による無権代理取引は、本人の認知判断能力が低下した場合かつ成年後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応である。成年後見制度の利用を求めることが基本であり、成年後見人等が指定された後は、成年後見人等以外の親族等からの払出し(振込)依頼には応じず、成年後見人等からの払出し(振込)依頼を求めることが基本である。
実に微妙だ。新指針は以下のように読める―――親族等による無権代理取引は、①本人の認知判断能力が低下していること、②それなのに成年後見制度を利用していない、という場合に限って行う超限定的な対応ですよ(でも今回は特別だから、対応しましょう、例外的に――とも読める)。
しかしながら、あくまで成年後見制度の利用を求めることが基本であり(だから銀行としては「成年後見制度を使ってね」といいますよ)、成年後見人等が指定された後は、親族等からの払出し(振込)依頼には応じません。(つまり、応じるのは今回だけですよ、ということか?)
ここまで言葉を補足しても、指針は▼「成年後見制度の適用申請すること」と引き換えに特例的に認めたのか、▼適用申請を本来はしてもらうべきだけれど、今回に限り、申請なしでも引き出しに応じますよ―――といっているのか、よく分からない。
よくわからないのだが指針は、次の次の段落では、あっさり家族の無権代理を以下のように認めている。
認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる。
この点、NHK以外のメディアでは、「成年後見制度を使って代理人を立てるのが基本だとしたうえで、親族などが認知症患者の預金を引き出すことを認める……」(TBS)と報道し、私の疑問を軽くスルーさせている。だからふつうに聞けば、どうしたって「今回は特例として、家族の引き出しを容認してくれるんだ」と、聞こえるはずだ。
ではNHKの他メディアとの微妙な食い違いはどこから来たのだろうか。
指針を読み返して気がついた。
答えは「認知症患者の銀行口座との取引形態(2)」にあった(つまり「本人との取引」)。
2)認知判断能力が低下した顧客本人との取引
(認知能力が落ちている場合は、本人との取引はしないのが一般的だが)成年後見制度の手続きが完了するまでの間など、やむを得ず認知判断能力が低下した顧客本人との金融取引を行う場合は、本人のための費用の支払いであることを確認するなどしたうえで対応することが望ましい。 ※太字・下線は筆者
NHKは、全銀協指針が醸し出しているこの辺のニュアンス――本人との取引ですら「成年後見制度の手続きが完了するまでの「つなぎ措置」であり、超限定的な用途に限って取引を行うようにした(=引き出しに応じる)に過ぎない――をくみ取って、(本人取引さえここまで厳しいのだから)本人以外の家族等の無権代理人が取引をする場合は、もっと厳しく制約を掛けてくるだろう、と読み取ったのではないか。
指針自体にあいまいさがあるので、NHKの解釈が正しいのか、他社の“ゆるめの解釈”の方が正しいのかは、なんとも言えない。しかし繰り返すが、❶成年後見導入を前提に緩めたのか、❷前提なしに「特例」として認めるのかは、認知症の家族にとっては天地がひっくり返るほどの大違いだ。記者たちは、なぜそこを確かめようとしなかったのか。
しない理由は、メディア側の意図などというおおげさなものではなく、単に現場の記者やディレクター、報道責任者たちが「成年後見」というこの制度をよく知らないまま、認知症(患者の)口座問題を扱っているということに尽きる。
全銀協の新指針発表というこの重大なプレスリリースが、どのような形でされたのかについては知らない。
記者に質問の機会がなかったのかもしれない。もし機会があったなら、私はこう質問したと思う。
「1回目は特例で家族の引き出しを認めてくれるということですか? 2回目、3回目はあるんでしょうか?」
さらに絶対に念押し質問したいのは、
「(この特例は)すでに家庭裁判所に後見等の開始申し立てをした家族が対象ですよね? だとすると、今回は家族が引き出せても、それと引き換えに、次は成年後見制度を使え、ということになりませんか!?」
2番目の質問については、(私がそう質問しても)全銀協は明確に答えないだろう。
成年後見制度適用が前提だ、などと銀行側が明言すれば、少なくとも金融庁は顔をつぶされたことになるし(金融庁は国民の側に立って銀行に「認知症口座の運用、何とかならんのかね」といっているのだから)、認知症の人がいる家族にとっては大ショックだからだ。
だから銀行側はそんなことを今は明らかにしないと思うが、認知症の人がいるご家族の皆さんは、全銀協の「認知症口座の新指針」全文をよく読んでいただきたい。運用が緩い方向に向かうことはない! 近い将来、いま以上に認知症口座への銀行側の対応は厳格になっていくだろう。だって、成年後見制度がそこにあるのだから!
指針では、驚くべきことに銀行も《……成年後見制度の利用は年間22万人にとどまっている。……銀行の実務においては、ご家族に成年後見制度の利用を促しても、月々の費用や、第三者に家族の資産を委ねることへの抵抗感等を理由に制度を利用してもらえないケースがある……》と、成年後見制度の不人気ぶりを認めている。
しかし一方、こうもいうのだ。
《……一方、本人の医療費、施設入居費、生活費等の支払いに充当するため、親族等への預金の払出し(振込)を求められるケースも多々ある。》
この一つひとつのケースが、銀行にとって重荷であるのは紛れもない事実。
さらにこれからの数年で、“認知症口座トラブル”は激増必至だ!
銀行にとっては、安全な解決策がすぐそこにあるのだ。
言うまでもない、成年後見制度である。
わがままをいうのもいい加減にしてくれ、法に沿った制度がそこにある、家族の認知症に対して何も対策しないなら、最後は民法による解決策「成年後見制度」を使いなさいよ!
銀行にそんなことを叫ばせないように、認知症を甘く見ず、今すぐ家族で対策を講じるべきだと、私は思う。
こちらの記事でさらに詳しく「認知症口座のお金はどうなる!?」について解説しました。
<初出:2021年2月20日>
あなたの家でお悩みの問題をお聴かせください。
成年後見制度に委ねるより、家族信託という手法を使う方が悩み解消につながるかもしれません。
家族信託は委託者と受託者の契約ですから、すべての事案でオーダーメイドの対策を講じることができます。
成年後見人は意思能力を失った本人の代理なので、将来へ向けての「対策」は一切できないのです。
家族信託なら財産管理から相続対策のことまで、契約の中に盛り込むことができます。
《このようにしたい》という想いがあれば、受託者に動いてもらえます。
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